その声は間違いなく実亨親王のものだった。配下を引き連れて私の元へと訪れた彼の目は吊り上がっていて、明らかにぶすくれたお怒りの表情である事が分かる。
 元々実亨親王はゲームに登場するキャラの中では、彼の偉そうな態度のせいでそこまで好みじゃなかったとはいえ……ああ、終わった! 島流しにされるんだ……! というネガティブ極まりない気持ちとうわ来たこのクソ野郎! という実亨親王への不敬な気持ちが湧いてきた。

「左大臣の一の姫よ。此度のそなたの振る舞い、我が大事なおなごを傷つけたというのは許されぬ」
「はいはい島流しですね、わかりました……」

 拒否権が無いのは分かっている。だからおとなしく返事するしかないんだけど……。実亨親王からすると私の反応は思ったのとは違っていたみたい。

「気が付いていたのか? まあいい。そなたを島流しの刑に処す。しかしえらく従順ではないか」
「いやだって……拒否とかできます?」
「そなたにしては正論を吐くのだな……」
「おかしいですか?」

 実亨親王はおかしくはないが……。と呟くと私の周囲にいた女房達へさっさと支度をしろ。と命じる。女房達は不満を抑えながらも私が出立する支度を整え始めた。

「これを飲め」
「なんですか?」

 実亨親王から手渡されたのは、白い筒のような陶器に入った何か。

「これを飲めば傷は治る。傷が治るのを待ってから島流しはしたくないのでな」
「でしょうね。飲みます」

 ごくりと飲み干すと、味はまったくしない。その代わりに身体の痛みが全部取れてちょっとだけ身体が軽くなった気分になった。