「構わぬ。しかし守りは固めよ。海に住まうあやかし共は油断できぬ。これより兵を率いて向かうぞ」

 ははっ。と命令を受けた従者が下がっていく。実亨親王は空を見上げながらふう……。と息を吐いた。

「……ついにここまでしてしまった」

 あやはを利用し、これから明子を迎えに行く。彼は己がこれまでこんなに欲に忠実になった事はあっただろうか? と振り返りはじめた。

「……いや、無いな」

 だが、ここまでしないと確実に後悔してしまう。今ならまだ間に合う。と己に言い聞かせるようにしながら実亨親王は明子がいる元へと向かう準備に取り掛かった。
 そして準備が終わり大鎧姿となった彼は馬に跨り、配下を率いて船が並ぶ港を目指す。港には彼の命を受けた多くの兵士や僧侶に陰陽師達が列をなしていた。

「皆の者! これより左大臣の一の姫を迎えに参る!」

 実亨親王の号令直後、男達の掛け声が地響きのようにこだました。