◇ ◇ ◇

 実亨親王が立野明子に島流しを告げてからはや5日間ほどが経過。実亨親王はあれから自身の屋敷にあやはを呼び寄せていた。なお屋敷の場所は内裏内にある御所ではなく……内裏から少し離れた所にある屋敷になる。実亨親王はここをよく別邸として使っているのだ。

「東宮様。こちら、似合っておりますでしょうか?」

 今、実亨親王の目の前には彼が用意した十二単の衣を着用したあやはが、少々自信なさそうに立っている。

「ああ、とても似合っているよ。あやは」
「ありがたき幸せでございます。東宮様」

 あやはに近こう寄れ。と手招きする実亨親王。しかし彼の胸の内にはあやはではなく明子がいた。そう。島流しを言い渡した時の、おとなしく処罰を受け入れていた明子の姿が。

(あの時のあやつの顔がいまだに頭から離れん……あやはを呼び寄せ、近くに置いているというのに)
「どうかしましたか?」

 あやはに心配そうに声をかけられた実亨親王は、いや、なんでもない。とはぐらかすがあやはは訝しむままだ。

「なんだか……心ここにあらずって感じが致しますが」
「そうか? 気のせいだろう」
「いいえ。私はこれまで多くの悪しきあやかしを成敗してまいりましたから……そういう読みはなんとなくですが当たるんです」
「じゃあ、俺は何を考えていると思っているんだ?」

 試すような目つきであやはを見る実亨親王。対するあやはを心配そうな表情を一切崩さない。