海へと落ちる。そう感じたが、私の身体はそこまで濡れていなかった。

「大丈夫か? けがは無いか?」
「あ、珠丸さん……」

 珠丸が寸での所で私を受け止めてくれていた。お姫様抱っこの状態な私は牡蠣を珠丸に渡すと、何とか岩場を両手で掴んで体勢を取り直す。

「ありがとうございます。助かりました」
「気をつけてな。そこは滑りやすいんだ。俺が近くにいるよ」
「えっでも……」
「もう魚は取れてるから心配すんな」

 彼の腰にいつの間にかかけられていた木籠の中にはぴちぴちと跳ねている銀色に光る魚達が入っていた。アジやイワシのようには見える。

「すみません……」
「大丈夫。俺がいるから安心しろ。何度落ちても受け止めるから」

 そう言われると何だか安心する。私はこくりとうなづくと、さっき手を伸ばしていた牡蠣を取って、彼の腰にある木籠に投げ入れた。
 その後も貝を何個か取ると、珠丸がもういいだろう。と声をかける。

「結構取れたんじゃないか? これだけあれば今日の分はいいだろ」
「ですね。むしろ明日までいけるんじゃないですか?」
「おっそうだな。干し魚にでもするか。それなら小腹が空いたときにも食えるしな」