「ほら、いくぞ」

 中庭に立てかけられたモリを掴んだ珠丸が私の手を掴んで海の方へと駆け出していく。彼の足の速さについていくのが精いっぱいだけど辛さは全くない。むしろなんだかわくわくしてきた。

「あのっ、そのモリで魚をつくんですか?!」
「ああ! 俺達海坊主は海でも息が出来るんだ!」

 そう。それこそが海坊主の真骨頂。海の中でも陸の上と同じように生活が出来るという。自分からすればちょっとうらやましい。

「うらやましいですね。海の中の景色は最高でしょう」
「ああ。あやかしもいれば魚やクジラなんかもいる。俺は陸も海もどっちも好きだ」

 私の方へ振り返りながら白い歯を見せて笑う珠丸。その後ろには木々の隙間から水平線がちらりと覗いている。ゲームのスチルによく出てきそうな構図を間近で見た私は、文字通り癒しを受けた。