「まあ、この辺にしておくか。さっさとここでの暮らしになれていかなきゃいけないからな」

 珠丸はさっと私から離れて真面目な顔つきに変わった。おふざけはここまでという事なのだろうか、さっき私に顔を近づけてきた時とは真逆の雰囲気を漂わせ始めている。

「よし、まずは屋敷を一通り案内する。それからアンタの部屋を決めるのと……ここでの炊事洗濯のやり方も教えておく。終わったら早速食料を取りに行こう」
「は、はい!」
「肩の力は抜いていいから」

 ぽんと私の肩を自分の方へ抱き寄せるようにして叩いてくるので、また顔が赤くなってしまう。

「は、は、はい……」
「ふふっ」

 彼の笑い声が、敏感になりつつある耳たぶの上にかかってきた。

◇ ◇ ◇

 屋敷の案内が終わると、私専用の部屋を決めた。場所は洞窟入り口の私から見て左にある部屋。ここはちゃんと木の壁で仕切られているので着替えなどにももってこいなスペースだった。

「わかった。実はここは元々物置小屋だったんだ。それでもいいか?」
「はい。いいです」

 彼が物置小屋だと言っている通り、中には棚や鍋などが積み重なっているように設置されている。でも乱雑さは無くて、ちゃんと整理整頓されているのが見て取れた。