海坊主。海中に住まう男のあやかし。漁師として働き、時には人間と協力し生計を立てていて、こういう無人島とかで生活しているんだっけか。
 とはいえ目の前にいるこの子は確か紅刀の姫君のメインストーリー・第3章に登場するモブのひとりで、出番は商船に乗り込んでちょっとした旅に出たあやはを案内する役割を担っていたくらい。
 あの時のスチルでは小さく描かれていた程度のものだったから、顔つきとか詳しい容姿はわからなかったけど……。へえ、結構イケメンだったのね。

「どうした? どこを見ている?」
「えっあっその……」

 もちろんゲームに出てたモブキャラですね? なんて言えないから、海坊主は初めて見ました……。とだけ答えた。

「そうか。まあアンタみたいな姫様からすればそうだろうよ」
「そ、そういうものなんですね」

 がさがさと彼に腕を掴まれた状態で、森の中を歩いていく。あちこちからぴよぴよと海鳥のような鳴き声が聞こえているけど、あやかしや獣がいる気配はない。

「アンタ、名前は?」

 立野明子と申します。とちょっとどもりながらも答えると、彼は珠丸(しゅまる)だと自己紹介をしてくれた。

「珠丸さん。よ、よろしくお願いします……」
「おう、自己紹介はここらへんで終わりだ。アンタ、島流しされたんだろ? だったらこの島で生きてくしかない」
「そこは理解してるんですけど、えっと何から始めて良いのか……」
「そこは俺の拠点で話そう。まずはその濡れた身体をどうにかしないと風邪ひくぞ。風邪拗らせて死ぬやつもいるんだから」