今日は八月三十日、明日はついに実家へ帰る日です。今年の神子の祭りは九月一日の日曜日だそうなので、それに合わせて祭りの前日に帰ることになりました。父が佐藤凛の母親に「娘が線香をあげたいそうだ」と既に話をつけたようで、行くのは余儀なくなりました。本当は急病のため行けなくなったと父に言うつもりでしたが、先手を打たれてしまいました。

 どうしてこんなことになったのか。
 考えれば考えるほど、彼女(・・)のことが頭にこびりついて離れません。
 忘れてしまいたいのに。

 中学校に上がる前に疎遠になった佐藤凛とは、幼い頃は本当に仲良しでした。毎日遊ぶ約束を取り付けるほどで、遊ぶのはもっぱら村の川のほとりでした。当時は整備も進んでいなかったので土手に降りることができて、平べったい石を見つけて水切りをして遊んだり、たも網で小さな魚をすくって遊んだりしていました。枝に紐を垂らしそのさきにするめをくくりつけ、ザリガニ釣りなんかもよくしていました。とても楽しかったのを覚えています。

 川付近の探検をするのも、お決まりの遊びでした。土手に生えている草をかき分け、小さなお地蔵さんが祀られた祠が鎮座しているのを見つけたこともよく覚えています。なぜこんなところにお地蔵さんがあるんだろうと不思議に思ったものの、一緒に手を合わせたりしました。そんな些細なことですら、昨日のことのように思い出せます。そういえばあの祠は、どうなったんだろう。川の整備が進んで、いまはもうその土手全体はコンクリートで覆われています。

 私は友達が少なかったので、学区外の佐藤凛が遊びに誘ってくれると本当に嬉しかった。退屈だった毎日に花が咲いたようでした。佐藤凛の学区は元々子供が少ないようで、いつも数人の子を引き連れて私と一緒に遊んでくれました。佐藤凛たちと出会ってからの毎日は、本当に光り輝いていたように思います。

 そんな日々がずっと続いてほしかった。楽しい思い出だけを持っていられたら、きっと私と佐藤凛は疎遠にはならなかった。
 佐藤凛の死について考えれば考えるほど、遠い記憶の片隅に置いてきた、一つのある出来事が思い起こされてしまう。

 だから、帰りたくなかった。
 でも、帰らなければなりません。

 彼女の死を知ってから、様々なことを調べてきました。

 話はどれもバラバラで関連がないように思うのに、どうしてかそれだけで終わらないと思う自分がどこかにいます。

 不安で不安で仕方ない。帰りたくない。思い出したくない。

 そんな私の気持ちを露ほども知らずに、彼は祭りが楽しみだと能天気に笑っています。

 

 ああ……、本当に、明日なんて来なければいいのに。