⬛︎ 2024年11月17日(日)午前11時〜
愛知県名古屋市内のファストフード店
休みの日に、わざわざ高校時代の元カレに会いにくるだなんて、すげぇ度胸してるな。それも、県跨いでくるなんて。
ふっ……わかってるって。でも、なんでいまさらそんなこと調べてるんだ?
えっ、コンテスト? モキュメンタリーって、最近話題のやつだよな。でもあれって、リアルで起きたことを書いてるわけじゃないだろ。……やめとけよ。バチ当たるぞ。
まぁでも、わざわざこっちまで来てもらって、追い返すのも気が引けるから、話すけどさ?
お前も知ってると思うけど、柘植が亡くなったのは、本当に卒業間近って時だった。これは風の噂で聞いたんだけど、自宅のクローゼットで、首吊ってたらしい。
校内選考で人気ナンバーワンの大企業に就職が決まってたし、本社勤務確約で四月からは都会暮らしだって嬉しそうに話してたんだ。だから、なんであんなバカなことしたんだろうって、あの時はみんな困惑してたよ。
柘植はバレー部のエースだったし、「文武両道」って言葉がお似合いなやつだった。性格も良かったし、俺もあのバカ明るい性格に助けられたこともあった。あいつが三年間同じクラスじゃなかったら、俺の高校生活はクソだったと思う。
ほら、俺らの高校、男子が極端に少なかっただろ? 俺バカだったからさ、公立で行ける高校が██商しかなかったわけだけど、もともと女子と話したりするのも苦手だったし、高校生活詰んだな〜って思ってたわけよ。女子たちも、あまりパッとしない男どもを見て、距離感保ってたらしいんだけどさ、柘植は違ったんだよ。あっという間に男女の壁壊して、クラス中を巻き込んだ。当時、学級委員だったってのもあるだろうけど、誰一人孤立しないように、常に周りを気にかけてくれてたんだよ。
一度だけ、あいつに聞いたことがある。そんなに周りの顔色ばっか窺って、疲れないのか、って。そしたらあいつ、「楽しい人が一人でも多ければ、もっと楽しくなると思わない?」って、なんの屈託もない笑顔で言ってきたんだよ。
だから俺は、あいつが死んだ理由が全然わからなかった。
でも、お前から連絡がきたとき、ピンと来たんだ。……あぁ、それならありえるかもって。
就職先が決まったあとも、あいつ日商検定とか受けてて、よく七階の簿記室とか情報処理室とかを自習で使ってたみたいなんだけど、ある日、変なことが起きたって、俺に相談してきたことがあるんだ。
その日も、いつもと同じように七階で自習をしてたみたいなんだけど、突然廊下でボールが跳ねる音がしたらしい。体育館は五階、武道場は四階にあったから、七階でそんな音が聞こえるはずないって思って、ちょっと気になって廊下に出てみたんだって。そしたら、そこには誰もいなくて、バレーボールだけが転がっていたらしい。まるで、自分がそこにいるのを知っていて、誰かがおちょくってきたみたいだったって、そう言ってた。
……あっ。でも――そうだ。思い出した。
その後、同じことがずっと続くようになったから、怖くて先生に相談したって言ってたな……。
たしか、高槻。ちひろの学年のクラス担任してたよな? 俺らが三年のときに異動してきた教師で、授業とかも教えてもらわなかったからほぼ関わりなかったんだけど、女子たちはかなりキャッキャしてたからなぁ。男の俺から見ても、あれはカッコよかった。
とにかく俺が言いたいのは、もしかしたら学校にまつわる怪談と柘植の死は関係ないかもってことだ。悪いな……もっと早くに、この話思い出しときゃよかったわ。そしたら、お前もわざわざこんな所まで来る必要なかったのに。
明日は休み?
……そっか。そしたらさ、俺ん家泊ってったら? 名古屋案内してあげるから――。
って、まぁそうだよな。冗談冗談。
じゃ、俺これから彼女とデートだから! 頑張れよ~。