⬛︎ 2024年11月14日(木)午後5時〜
東京都渋谷区表参道のカフェ
ちひろ先輩! こっちこっち〜! あれっ? ……おーいっ、こっちこっち!
……もうっ。あたしの顔、忘れちゃいましたか?
さすがに驚きましたよ。だって、ちひろ先輩から連絡来るなんてこといままでなかったですし、なんてったって、あたしの憧れの先輩だったので!
……え、知らなかったって? うっそだぁ。あたし、本気で仲良くなりたくて、結構プッシュしてたのに〜。
――あぁっ、すみません。優乃のことですよね?
あたし、結構仲良かったんです。同じクラスだったし。とは言っても、たった半年の仲になっちゃいましたけど……。まさか、快速電車に飛び込むなんて……想像しただけで痛いです。
……理由は、わかりません。優乃って可愛かったし、優しかったし、誰からも好かれるような子でしたよ。優乃のことが嫌いな人がいたとしたら、それはきっと、ただの嫉妬です。いじめられてるってこともなかったし、いじめてるってこともありませんでした。まぁ、そもそもあたしたちの学年、陰湿ないじめとか派閥とかなかったし、基本的には平和だったんです。
でも、その次の年、ちひろ先輩たちの代でもありましたよね。なんて方でしたっけ?
……あぁ、そう。鹿倉先輩。あの方が十階から飛び降りたって聞いたときは、さすがに鳥肌立ちました。
実は、優乃、怖がってたんですよね。
一年の情報処理の授業って、七階の第二情報処理室を使うじゃないですか。毎回、ヘトヘトになりながら階段を上ってたんですけど、夏休み明けてからかな? 優乃が八階へ続く階段を見て「怖い」って怯えるようになったんです。
ほら、七階から上の階って閉鎖されてたじゃないですか。電気も点いてないから、ものすごく暗かったし、確かに言われてみれば不気味で怖いな、ってあたしも釣られたんですけど……それにしても、優乃の怖がり方は異常でした。
ある日「何がそんなに怖いの?」って聞いてみると、突然何かに怯えたように過呼吸を引き起こして、保健室へと運ばれていきました。これはマズイことを聞いてしまったのではないかと思って、授業終わったら保健室行って謝りに行こうかなって考えてたんですけど、どうやらその日は早退したらしくて。だから、明日にでも謝ろうってなったんですけど、次の日からあからさまに優乃の雰囲気とか態度が変わってて……。誰とも目を合わせようとしないし、ツヤツヤだった髪は絡まってボサボサだったし、禁止されてはいましたけどいつもしていた化粧もしていなくて――なんか怖くて、それ以降、優乃に話しかけられなくなったんです。
クラスの子たちも、さすがに優乃の変貌に戸惑っていたらしくて、いつもは優乃に群がるのに、あたしのほうに集まるようになったんです。本当に、困った話なんですけどね(笑)
その一週間後……いや、二週間後だったかな? 優乃が電車に飛び込んだのは。
まぁ、正直な話……優乃って顔が可愛いっていうのもあったから、人気だったってゆーのもありますよ。結局は、愛嬌が一番大事なんだなって、優乃がおかしくなった時は思いましたけどね。なんか、視えちゃいけない何かが視えてたのかなーって。その、鹿倉さんって人も、そーゆー霊的なものに誘われて飛び降りたんじゃないかなって、あたし的には推察してるんですけどね。
八階から十階の空間に、超常的な何かが隠されてるんですよ……きっと。
……ははっ。なーんちゃって!
いやぁ、本当に会えたのが嬉しくて、ついベラベラ喋っちゃった! すみませんっ。
……えっ?
そりゃもちろん、悲しかったですよ。でも、優乃が選んだ道です。あたしには、できることはなかったんですよ。
あっ、ごめんなさい。そろそろ仕事行かなきゃ――。
あれっ、言ってませんでしたっけ? あたし、いまここらへんでキャバ嬢やってるんです。この顔も、実は九百万課金してるんですよぉ〜! へへっ。
じゃっ、また今度飲みにでも行きましょ〜!
もちろん、あたしの奢りで!