下記、鉄筋工からYoutuberに転身した登録者数七十万人越えの人気Youtuber『タナカ怪談工務店』の動画を文字起こししたものです。
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いらっしゃいませ。ここはタナカ怪談工務店――恐怖の材料、お揃いですか? さぁ、開店のお時間です。
本日は、私が工務店勤め――とは言っても、現在の怪談工務店ではございません。このチャンネルをよく観てくれている方はご存知かと思いますが、つい数年前まで、私は鉄筋工として建設現場で働いていました。今から皆様にお話しするのは、二十五年ほど前、私がまだ二十そこらだった頃の話です。
当時、私はとある学校の建て替え工事に携わっていました。公共事業として行われていたその工事は大規模なもので、地下二階、地上二階の木造校舎を地上十階建てのRC造(鉄筋コンクリート造)に建て替えるというものでした。鉄筋工の私がその工事に携わったのは、解体工事が終わった着工のタイミングだったのですが、その時には既に、現場では妙な噂が広がっていました。
「埋め戻した地下から、人のような声が聞こえてくる」
最初にそんなことを言い出したのは、解体工の女性作業員だったようです。
鉄筋工の私は、解体工のその女性とは一切関わりもなく、人伝に聞いただけなので、最初はあまり信じていませんでした。戦時中は医療施設として運用していた、なんて噂もあった学校だったので、少し怖がらせてやろうと、その解体工の女性がついた小さな嘘だと思ったのです。
しかし、ここから不思議なことが起こります。
私と同じタイミングで現場に入った他の職人たちが、次々と同じようなことを言い始めたのです。
「埋め戻した地下の辺りから、唸り声が聞こえるんだよ」「あれ、本当に人の声じゃないのか?」――と。
ですが、私には一切そんなものは聞こえませんでした。
昔から、それなりに視えてはいけないものが視えたり、聞こえてはいけないものが聞こえたりと、霊的なものとは切っても切り離せない人生を送ってきました。もちろん、他の工事現場でもそういった何かを感じることはありました。その土地で、過去に凄惨な出来事が起きていた場合、私は必ずと言っていいほど、その場所に宿る怨念のようなものに触れてしまうのです。
にも関わらず、その学校の現場ではそれが全くなかったのです。むしろ、何もかもが遮断されているかのような、不気味な空っぽさがそこにはありました。
それでも周囲の職人たちが言う「声が聞こえる」という話は、無視ができないほど頻繁に耳にするようになりました。
そして、三ヶ月ほど経ったある日のことです。鉄筋工事も終盤に差し掛かり、私以外の職人たちは「やっとこの現場から解放される」「頭がおかしくかる寸前だった」と気持ちを吐露し始めました。私も、日に日にやつれていく仲間たちを見るのは辛かったので、一日でも早く作業を終えようと、いつも以上に気を引き締めて仕事に取り組んだのですが――。
十階部分の鉄筋を組んでいた時でした。
「うわああぁぁぁぁぁっ!!」
叫び声が聞こえたのです。
私にもいよいよ、皆が耳にしてきた霊の声が聞こえてしまったのかと思いましたが、どうやら違うようでした。
先程まで、後ろの方で作業をしていた同じ鉄筋工の男が、姿を消していたのです。というよりも、落ちたんです。そう認識すると同時に、地上からは何かが破裂したような音が聞こえ、その音に続くように、作業員たちの野太い悲鳴が上がりました。現場監督は顔が青ざめながらも迅速に作業を中止させ、救急車を呼びましたが――。
彼、即死だったみたいです。
高所で作業する際はハーネス――命綱や安全帯とも呼ばれるもの――を付けるのですが、その鉄筋工はハーネスのフックをアンカーに付けることなく、作業をしていたようでした。
気が緩んでいたのかもしれませんね。
彼もまた、埋め戻した地下から声が聞こえてくる、とやたら騒ぎ立てていた一人でしたから。工事終盤ということもあり、注意散漫になってしまったのでしょう。
その後、警察やら労働基準監督署が調査に入り、一時工事は中断されていましたが、わりとすぐに再開に至りました。
労働環境も特に問題はなく、ただの不注意による不慮の事故と結論づけられたからです。地下から聞こえてくる声と、何らかの関連性があるのではないかと考えている者も多かったですが、それを口にする者は誰一人としていませんでした。
鉄筋工事も終盤だったので、再開してすぐにその現場から私は離れることになり、それ以降のことはよくわかりません。
最後に――これは風の噂で聞いたのですが、どうやら埋め戻した地下、再建築されたみたいです。地下は作らず、地上十階建ての新校舎になる予定だったのが、いまでは地下二階、地上十階建ての校舎になっているようです。理由は……わかりません。
その校舎はもしかしたら今、あなたが通っている学校かも……しれませんね?
それでは、閉店のお時間です。
またのご来店、お待ちしております。