と、考えたものの、いざ柚月さんの事を口に出そうとすると、どうも照れてしまって何も聞けない。何をどう聞いたらいいのかも分からない。そろそろ地区大会が始まるので、部活の方もピリピリし始めていた。
学校が休みの日はだいたい練習試合。うちの学校でやることもあるし、遠征することもある。何とか勉強も頑張らなければならないし、何て高校生活は忙しいのだろう。これは、柚月さんの癒しがなければやっていけない。何のためにこの学校に入ったというのだ。
というわけで、俺はある朝待ち伏せをした。最寄り駅は同じなので、早めに行って駅の改札口で柚月さんを待った。
しかし、これはあまりいただけない状況だった。他の学校へ行く、中学時代の友達や先輩に会ってしまう。うちの高校に通う奴に会ってしまったら、どう言い訳をすればいいのか。
「おう、琉久。誰を待ってるんだ?」
とうとう聞かれてしまった。
「もしかしてお前、彼女できたのか?同じ中学の子か?」
そう来たか。
「違うよ。あっ!」
柚月さんが来た。ああ、やっぱり綺麗だ。
「柚月さん!」
俺は手を上げて柚月さんに声をかけた。イヤホンをして音楽を聴いていた柚月さんは、手を上げた俺に気づいて驚いた顔をし、イヤホンを片方外した。
「あれ、どうしたの?いつも会わなかったのに。」
そう言って、柚月さんは微笑した。はあああ。なんて優し気な笑顔なんだー。柚月さん、俺が行くよりも10分早い電車に乗っていたのか。毎日ニアミスしてたんだなあ。
俺は同級生の方は軽く無視して、柚月さんと一緒に電車に乗った。ほぼ満員電車なので、一緒に乗ると体がくっつく。柚月さんが電車のドアに背を付けて立ったので、俺は向かい合って立ち、柚月さんの頭の上に左腕をついた。いきなりこんなに接近してしまうとは。心臓がバクバク言い始めた。
「本当に大きくなったな、琉久。中学の時は俺の方が大きかったのに。」
柚月さんが俺の顔を見上げた。
「うん。中3の時に20センチくらい伸びたから。」
柚月さんを上から見下ろすなんて、信じられない。かっこよくて優しかった、俺にとって天使、いや神様、いや弥勒菩薩のような人だったのに、こんな、こんな、壁ドンみたいな感じになって。
ぐらりと電車が揺れ、他の乗客が俺の背中にどどどっと寄りかかってきた。俺は左腕で頑張って体を支えたけれど、手の平だけでは支えきれず、肘までドアに付けるかっこうになった。
俺、赤面。絶対に顔が赤くなっていると思う。だって、柚月さんの髪の毛が俺の頬についているのだから。それに、胸同士も軽く触れているし。
だが、すぐに反対側に揺れて、元に戻ってしまった。
「ごめん。」
つい、謝った俺。柚月さんは、何でもないようにすましていると思ったら、そうじゃなかった。さっきよりうつむいて、前髪が垂れ、柚月さんの目元の表情を隠す。もしかして、嫌だったのかな。やばい、嫌われたらどうしよう。電車の時間ずらされたらどうしよう。あんまりストーカーみたいな事はできないよな、嫌われるのが一番嫌だ。
学校の最寄り駅に着いた。押し出されるようにして電車を降り、改札口を出るとわが校の生徒の列が続く。
「柚月さん、あのさ、LINE交換して。」
また待ち伏せしないでも済むように、どうしてもここだけは頑張らないと。
「いいよ。」
意外にも柚月さんはすぐにOKしてくれて、さっとスマホを取り出した。俺も慌てて取り出す。歩きながらQRコードを読み取り、無事につながった。う、嬉しい。
「ありがと、柚月さん。」
「ずいぶん嬉しそうな顔するんだな。」
柚月さんは苦笑いをした。
「だって、俺がこの学校に入ったのは、」
「入ったのは?」
「柚月さんと同じ学校に通うためだもん。」
「はい?」
あ、あれ?いきなり何言ってんだ、俺?
「あ、いや、その。」
柚月さんはぽかんと俺を見上げている。歩きながらだけど。俺は目を泳がせる。どうしたらいいのか分からない。
「そうか、俺がまだバレーやってると思ってたんだな。ごめんな。」
柚月さんは急に悲しそうな顔をした。今度は柚月さんを悲しませてるのか、俺?
「違うよ、いや、やってると思ってたけど、そうじゃなくて……。」
「そうじゃなくて?」
柚月さんに聞き返され、どう言えばいいのか迷っていると、
「おう、河野!おはよう。今日は後輩と一緒か?こいつ、この間廊下で騒いでた奴だろ?」
柚月さんの肩に腕を回してくる人が現れた。むむ、馴れ馴れしい。
「ああ、たまたま会って。」
柚月さんがそう言った。たまたまじゃないのに。俺がずっと待っていたんだ。でもそうは言えない。柚月さんがそいつと話している間に、学校に着いてしまった。
「じゃあな、琉久。」
柚月さんは俺を見てニコっとして、腕をポンと叩き、二年生の下駄箱の方へ行った。俺はしばらくの間柚月さんの後ろ姿を見送った。今更ながら赤面する。くっついて電車に乗ったり、LINEを交換したり、今日はいい日だ!
学校が休みの日はだいたい練習試合。うちの学校でやることもあるし、遠征することもある。何とか勉強も頑張らなければならないし、何て高校生活は忙しいのだろう。これは、柚月さんの癒しがなければやっていけない。何のためにこの学校に入ったというのだ。
というわけで、俺はある朝待ち伏せをした。最寄り駅は同じなので、早めに行って駅の改札口で柚月さんを待った。
しかし、これはあまりいただけない状況だった。他の学校へ行く、中学時代の友達や先輩に会ってしまう。うちの高校に通う奴に会ってしまったら、どう言い訳をすればいいのか。
「おう、琉久。誰を待ってるんだ?」
とうとう聞かれてしまった。
「もしかしてお前、彼女できたのか?同じ中学の子か?」
そう来たか。
「違うよ。あっ!」
柚月さんが来た。ああ、やっぱり綺麗だ。
「柚月さん!」
俺は手を上げて柚月さんに声をかけた。イヤホンをして音楽を聴いていた柚月さんは、手を上げた俺に気づいて驚いた顔をし、イヤホンを片方外した。
「あれ、どうしたの?いつも会わなかったのに。」
そう言って、柚月さんは微笑した。はあああ。なんて優し気な笑顔なんだー。柚月さん、俺が行くよりも10分早い電車に乗っていたのか。毎日ニアミスしてたんだなあ。
俺は同級生の方は軽く無視して、柚月さんと一緒に電車に乗った。ほぼ満員電車なので、一緒に乗ると体がくっつく。柚月さんが電車のドアに背を付けて立ったので、俺は向かい合って立ち、柚月さんの頭の上に左腕をついた。いきなりこんなに接近してしまうとは。心臓がバクバク言い始めた。
「本当に大きくなったな、琉久。中学の時は俺の方が大きかったのに。」
柚月さんが俺の顔を見上げた。
「うん。中3の時に20センチくらい伸びたから。」
柚月さんを上から見下ろすなんて、信じられない。かっこよくて優しかった、俺にとって天使、いや神様、いや弥勒菩薩のような人だったのに、こんな、こんな、壁ドンみたいな感じになって。
ぐらりと電車が揺れ、他の乗客が俺の背中にどどどっと寄りかかってきた。俺は左腕で頑張って体を支えたけれど、手の平だけでは支えきれず、肘までドアに付けるかっこうになった。
俺、赤面。絶対に顔が赤くなっていると思う。だって、柚月さんの髪の毛が俺の頬についているのだから。それに、胸同士も軽く触れているし。
だが、すぐに反対側に揺れて、元に戻ってしまった。
「ごめん。」
つい、謝った俺。柚月さんは、何でもないようにすましていると思ったら、そうじゃなかった。さっきよりうつむいて、前髪が垂れ、柚月さんの目元の表情を隠す。もしかして、嫌だったのかな。やばい、嫌われたらどうしよう。電車の時間ずらされたらどうしよう。あんまりストーカーみたいな事はできないよな、嫌われるのが一番嫌だ。
学校の最寄り駅に着いた。押し出されるようにして電車を降り、改札口を出るとわが校の生徒の列が続く。
「柚月さん、あのさ、LINE交換して。」
また待ち伏せしないでも済むように、どうしてもここだけは頑張らないと。
「いいよ。」
意外にも柚月さんはすぐにOKしてくれて、さっとスマホを取り出した。俺も慌てて取り出す。歩きながらQRコードを読み取り、無事につながった。う、嬉しい。
「ありがと、柚月さん。」
「ずいぶん嬉しそうな顔するんだな。」
柚月さんは苦笑いをした。
「だって、俺がこの学校に入ったのは、」
「入ったのは?」
「柚月さんと同じ学校に通うためだもん。」
「はい?」
あ、あれ?いきなり何言ってんだ、俺?
「あ、いや、その。」
柚月さんはぽかんと俺を見上げている。歩きながらだけど。俺は目を泳がせる。どうしたらいいのか分からない。
「そうか、俺がまだバレーやってると思ってたんだな。ごめんな。」
柚月さんは急に悲しそうな顔をした。今度は柚月さんを悲しませてるのか、俺?
「違うよ、いや、やってると思ってたけど、そうじゃなくて……。」
「そうじゃなくて?」
柚月さんに聞き返され、どう言えばいいのか迷っていると、
「おう、河野!おはよう。今日は後輩と一緒か?こいつ、この間廊下で騒いでた奴だろ?」
柚月さんの肩に腕を回してくる人が現れた。むむ、馴れ馴れしい。
「ああ、たまたま会って。」
柚月さんがそう言った。たまたまじゃないのに。俺がずっと待っていたんだ。でもそうは言えない。柚月さんがそいつと話している間に、学校に着いてしまった。
「じゃあな、琉久。」
柚月さんは俺を見てニコっとして、腕をポンと叩き、二年生の下駄箱の方へ行った。俺はしばらくの間柚月さんの後ろ姿を見送った。今更ながら赤面する。くっついて電車に乗ったり、LINEを交換したり、今日はいい日だ!