試合は負けて、俺たちの秋の大会は終わった。また朝練も解除され、朝の満員電車で柚月さんと一緒に登校する毎日がやってきた。部活は、球拾いとランニングをするために出て、帰りは柚月さんと一緒に帰った。純玲さんには申し訳なかったけれど、やっぱり他に好きな人がいるからと言って、別れた。真希は、俺と純玲さんが別れた事に満足していた。
「琉久、見直したわ。あの女と別れたんだってね。あんたにはやっぱり柚月先輩の方がお似合いよ。」
「ちょっ、真希、何言ってんだよ。」
俺は慌てたが、真希は聞く耳を持たない。確かに、真希に告白された時のシチュエーションでバレバレだったわけだけど。
 諸住先輩も、祝福してくれた。
「良かったなあ、琉久。思いが叶って。うんうん。」
俺の背中をバンバン叩きながら言った。
「ところで、諸住先輩は悠理ちゃんの事、ちゃんとモノに出来たんですか?」
俺が尋ねると、諸住先輩は一瞬固まって、
「うーん。どうなんだろう。」
と言って頭を抱えた。
「観覧車では、いい事出来たんですか?」
「おう、あの時はいただいたさ。」
と言って、諸住先輩は自分の唇を指さしてウインクした。
「良い景観でしたもんね、ムードに流されたんですかね。悠理ちゃんも、柚月さんも。」
と俺が言うと、
「そうか、お前らもやっぱり。」
諸住先輩はにやりとし、二人でうっしっし笑いをしてしまった。お互いの背中をバンバン叩いて。
「何やってるんですか?」
マネージャーが怪訝そうな顔で尋ねてきた。俺たちは咳ばらいをして元の顔に戻した。でも、なんだかにやけ顔が止まらない。諸住先輩もそのようだ。
「またダブルデートしような。」
「はい。」
またこっそりうっしっし笑いをする俺たちだった。

 「琉久!」
部活を終えて体育館を出ると、柚月さんが手を振っていた。か、可愛い。なぜだ。なぜこんなに可愛いんだ。俺は大股で柚月さんに近づいて行って、がばっと肩を抱いた。
「お待たせ。」
幸せいっぱいだった。俺と柚月さんが二人で歩く姿がSNS上に出回り、女子の間で話題になっている事など、この時の俺たちには知る由もなかった。けれど、表面上は何事もなく平穏な日々が続いた。女子たちが温かく見守ってくれていたので。その事を知るのは、俺がもっと大人になってからの事であった。

                  完