また都大会トーナメント戦の日がやってきた。今日は難しい相手との試合だ。
「今日勝てばインターハイ出場が見えてくるぞ!気合い入れてけ!」
橋田先生、いつになく熱がこもっている。今日は相手校の体育館での試合。アウェイ感が半端ない。うちの応援もちゃんと来てくれているけれど、相手は私立高校で、強制的に応援団をさせられているのかと思うほど、多くの生徒が観客席にぎっしり詰まっていた。
今日は柚月さん、来てくれているだろうか。昨日聞いたら、「どうしようかなー」なんてはぐらかしていた。いや、本当に迷っていたのかも。先週は試合前に励ましに来てくれたけれど、今日は一般の人とは会えない構造になっていて、結局柚月さんが来てくれていたとしても、こちらは分からない。スマホは貴重品袋に入れて先生に渡してあるし、もう連絡の取りようもないのだ。
いや、そんな事を考えている場合ではない。もしこれで負けてしまったら3年生は引退だ。インターハイに行きたい、今年は行けそうだ、先生も部員たちもそう言い続けてきた。
「琉久が入ってくれたおかげだな。」
「今日は頼んだぞ。お前にかかってるんだからな。」
3年生の先輩に言われて、俺は相当プレッシャーを感じていた。口では任せてください、などと言ったけれど、経験の浅い俺なんかが頼りにされても、と弱気になってしまいそうになる。隆二などは青い顔をしている、気がする。
試合が始まった。両校の応援で審判の笛が聞こえるか心配になるほどだった。やはり相手は強い。スパイクを打たれると取れない。
「ブロック!」
ブロックのタイミングを外させる。思いっきり飛ぶとクイックやフェイントをされる。相手が一枚上手(うわて)だった。
結果、3セット先取され、俺たちは負けた。いいところをほとんど出せなかった。俺は緊張して上手くできなかったのだろうか。それとも相手が強かっただけなのだろうか。その答えが知りたくて、俺が実力を発揮できなかったせいではないと思いたくて、悶々としたまま控室を出た。
チームメイトは皆、無言で控室を出た。3年生は泣いていた。校舎を出て、女子マネージャーたちと合流したが、マネージャーたちも泣いていた。ユニフォームを渡し、マネージャーたちの肩を軽く叩いて励ましている部員もいた。俺も、何となく真希の肩をポンポンと叩いた。真希は顔を上げて俺を見て、なんと俺の胸に頭をつけて泣いた。戸惑ったけれど、頭をなでなでしてやった。そして、もう一度肩をポンポンと叩き、離れた。
正門を出ると、そこに柚月さんが壁に寄りかかって立っていた。俺が出てくると、体を起こして俺の前に立った。俺は何か言おうとしたけれど、のどに何かが引っかかっていて言葉が出なかった。
「帰るぞ。」
柚月さんはそう言って駅の方へ歩き出した。俺も一緒に歩く。無言で駅まで行き、電車に乗り、最寄り駅で一緒に降りた。もう夕方遅く、土曜日なので人通りがほとんどなかった。
「俺。」
俺は立ち止まって、やっと声を出せた。柚月さんも立ち止まって俺を振り返った。
「俺、今日、自分の実力を出せなかったのかな。それとも、相手が強かっただけなのかな。」
柚月さんの目を見てそう言った。視界が少しぼやけた。
「琉久。」
柚月さんは、友人がそうするように、俺の肩を抱いた。
「負けちゃったから、今日はご褒美もらえないんだよね。」
無理に笑ってそう言ったけれど、かえって涙がこぼれてしまった。俺は思わずしゃがみ込んだ。目を両手で覆う。
そうしたら、手の甲にさらっと髪の毛が当たった感触があって、そして、なんと唇を奪われた。びっくりして目から少し手を離したら、柚月さんの顔がそこに!
屈んでキスしてくれた柚月さんは、唇を離すと起き上がり、俺の頭をなでなでした。
「ゆ、柚月さん?」
なんで?どして?この間は勝ったご褒美にハグしてくれて、キスはだめで、それで今日は負けちゃったのにキスしてくれるの?
もしかして、柚月さんは困っている子を放っておけない優しい人だから?俺が気分が悪くて座り込んでいたのを助けてくれた時のように、今またしゃがみ込んで泣いていた俺が可哀そうで、助けてくれたってこと?
「元気出せよ、琉久。また次があるだろ。今日の自分がどうだったのか、ゆっくり考えて今後に活かせよ。」
柚月さんはそう言って優しく笑った。俺は立ち上がり、
「柚月さん!」
と叫ぶように言って、柚月さんをぎゅっと抱きしめた。柚月さんはいつものように放せとは言わず、俺の背中をポンポンしてくれた。
「さあ、帰るぞ。」
「うん。」
俺は柚月さんを離して、歩き始めた。
「手、つないでいい?」
「だめ。」
やっぱりか。調子に乗りました。
「今日勝てばインターハイ出場が見えてくるぞ!気合い入れてけ!」
橋田先生、いつになく熱がこもっている。今日は相手校の体育館での試合。アウェイ感が半端ない。うちの応援もちゃんと来てくれているけれど、相手は私立高校で、強制的に応援団をさせられているのかと思うほど、多くの生徒が観客席にぎっしり詰まっていた。
今日は柚月さん、来てくれているだろうか。昨日聞いたら、「どうしようかなー」なんてはぐらかしていた。いや、本当に迷っていたのかも。先週は試合前に励ましに来てくれたけれど、今日は一般の人とは会えない構造になっていて、結局柚月さんが来てくれていたとしても、こちらは分からない。スマホは貴重品袋に入れて先生に渡してあるし、もう連絡の取りようもないのだ。
いや、そんな事を考えている場合ではない。もしこれで負けてしまったら3年生は引退だ。インターハイに行きたい、今年は行けそうだ、先生も部員たちもそう言い続けてきた。
「琉久が入ってくれたおかげだな。」
「今日は頼んだぞ。お前にかかってるんだからな。」
3年生の先輩に言われて、俺は相当プレッシャーを感じていた。口では任せてください、などと言ったけれど、経験の浅い俺なんかが頼りにされても、と弱気になってしまいそうになる。隆二などは青い顔をしている、気がする。
試合が始まった。両校の応援で審判の笛が聞こえるか心配になるほどだった。やはり相手は強い。スパイクを打たれると取れない。
「ブロック!」
ブロックのタイミングを外させる。思いっきり飛ぶとクイックやフェイントをされる。相手が一枚上手(うわて)だった。
結果、3セット先取され、俺たちは負けた。いいところをほとんど出せなかった。俺は緊張して上手くできなかったのだろうか。それとも相手が強かっただけなのだろうか。その答えが知りたくて、俺が実力を発揮できなかったせいではないと思いたくて、悶々としたまま控室を出た。
チームメイトは皆、無言で控室を出た。3年生は泣いていた。校舎を出て、女子マネージャーたちと合流したが、マネージャーたちも泣いていた。ユニフォームを渡し、マネージャーたちの肩を軽く叩いて励ましている部員もいた。俺も、何となく真希の肩をポンポンと叩いた。真希は顔を上げて俺を見て、なんと俺の胸に頭をつけて泣いた。戸惑ったけれど、頭をなでなでしてやった。そして、もう一度肩をポンポンと叩き、離れた。
正門を出ると、そこに柚月さんが壁に寄りかかって立っていた。俺が出てくると、体を起こして俺の前に立った。俺は何か言おうとしたけれど、のどに何かが引っかかっていて言葉が出なかった。
「帰るぞ。」
柚月さんはそう言って駅の方へ歩き出した。俺も一緒に歩く。無言で駅まで行き、電車に乗り、最寄り駅で一緒に降りた。もう夕方遅く、土曜日なので人通りがほとんどなかった。
「俺。」
俺は立ち止まって、やっと声を出せた。柚月さんも立ち止まって俺を振り返った。
「俺、今日、自分の実力を出せなかったのかな。それとも、相手が強かっただけなのかな。」
柚月さんの目を見てそう言った。視界が少しぼやけた。
「琉久。」
柚月さんは、友人がそうするように、俺の肩を抱いた。
「負けちゃったから、今日はご褒美もらえないんだよね。」
無理に笑ってそう言ったけれど、かえって涙がこぼれてしまった。俺は思わずしゃがみ込んだ。目を両手で覆う。
そうしたら、手の甲にさらっと髪の毛が当たった感触があって、そして、なんと唇を奪われた。びっくりして目から少し手を離したら、柚月さんの顔がそこに!
屈んでキスしてくれた柚月さんは、唇を離すと起き上がり、俺の頭をなでなでした。
「ゆ、柚月さん?」
なんで?どして?この間は勝ったご褒美にハグしてくれて、キスはだめで、それで今日は負けちゃったのにキスしてくれるの?
もしかして、柚月さんは困っている子を放っておけない優しい人だから?俺が気分が悪くて座り込んでいたのを助けてくれた時のように、今またしゃがみ込んで泣いていた俺が可哀そうで、助けてくれたってこと?
「元気出せよ、琉久。また次があるだろ。今日の自分がどうだったのか、ゆっくり考えて今後に活かせよ。」
柚月さんはそう言って優しく笑った。俺は立ち上がり、
「柚月さん!」
と叫ぶように言って、柚月さんをぎゅっと抱きしめた。柚月さんはいつものように放せとは言わず、俺の背中をポンポンしてくれた。
「さあ、帰るぞ。」
「うん。」
俺は柚月さんを離して、歩き始めた。
「手、つないでいい?」
「だめ。」
やっぱりか。調子に乗りました。