バシッ! ダーン!
「よし!いいぞ琉久。」
スパイクを決めて先生に褒められた。もっと高く、そしてもっと速く。それから、相手をよく見ろと。いつも先生や悠理ちゃんから言われて、身についてきた。気がする。
 今日も熱い部活が終わって、へとへとになった俺。けれどもへたっている場合じゃない。今日は木曜日。柚月さんと一緒に帰れるはずの日だ。けれど、待ち合わせとか細かく決めてあるわけではない。だから心配もあってソワソワ。急いで着替えて一番乗りで体育館を出ようとすると、マネージャーの真希が驚いて俺を振り返った。
「どうしたの、琉久。何か用事でもあるの?」
「あ?ああ、まあね。」
曖昧に答えて、俺は髪の毛をささっと整え、体育館を出た。辺りを見渡す。いない。どこにいるんだろう。まさか、早く部活が終わったから先に帰ったとか?不安になってスマホを確認するも、何も来ていなかった。正門の方へ歩いて行くと、途中の校舎の陰に、人がいた。スマホをいじっている。垂れた前髪がカッコいい。柚月さんだ。ああ、ちゃんと待っていてくれたんだー。
「柚月さん。」
「おう、琉久、お疲れ。」
ああ、笑ってくれたよぅ。幸せだ。告白した時も、好きなんでしょって聞いて否定されなかったとはいえ、ちょっと怒ってるような態度だったし、こうして笑顔を向けられるのって久しぶりで。
「何、にやにやしてんだよ。」
柚月さんはそう言いながらも、機嫌は良さそう。俺たちは一緒に歩いて門を出て、駅の方へ向かった。
「柚月さん、部活何時に終わったの?けっこう待たせちゃった?」
「部活が終わるのは5時。戸締りするから帰れって言われちゃうから、5時半には完全に校舎を出なきゃいけなんだ。」
「そうなの?じゃあその後ずっと待ってたの?6時半過ぎまで。」
「見てたよ。」
「何を?」
「琉久を。」
そう言って、柚月さんは隣にいる俺を仰ぎ見た。
「え?」
俺はふいに黙った。俺を、見てた?
「お前、スパイクのフォームが綺麗だな。」
柚月さんは前を向いて、少し上の方を見て言った。
「え、そう?」
「琉久がうちの学校のバレー部にいるって知ってさ、どんくらい上手くなったのかなーって興味本位で部活見に行ったらさ。」
柚月さんは前方を見つめて歩きながら、そう言って言葉を切った。
「見に行ったら?」
俺が促すと、
「スパイクが綺麗で、高くて……。」
柚月さんはまた言葉を切って、ちらっと俺の顔を見た。
「かっこよかったんだ。」
そう言って、うつむいた。か、可愛い!いや、落ち着け俺。ここは公道だ。でも、人はたいして歩いていないし、暗くて遠くからでは見えないし。
 俺は柚月さんの肩をそっと抱いた。が、次の瞬間手をぴしゃりと叩かれた。
「痛て!あれ?なんで?」
「こら、調子に乗るな。」
睨まれた。ダメなのか。残念。