ソラは地元A大学卒業後、総合スーパーの大手小売企業、株式会社DDTに入社してから、三年目の春を迎えていた。

 当初より当社の主幹である生鮮食品部門に配属され、県北の中型店の精肉課でOJT研修を受け、勤務したのだった。
 最初に花形の大型店に配置されなかったのは、むしろDDT本部の彼にたいする期待のあらわれであった。
 大型店は所属する売り場に配置される正社員の数が多く、新人にはなかなか主要な業務にかかわるチャンスがやってこないからだ。

 逆に中型店舗は、主任とともにその補佐をする立場になり、売場管理業務にかかわり仕事をおぼえる機会が格段に多いことため、有望な新人はあえて規模の大きくない現場でデビューするケースが少なからずある。
 ソラは年明けに受けた昇格試験をパスし、今後の異動先によっては売場主任に任命される可能性があった。

 街中の桜も散り、いよいよGW商戦を見据えて、売場ひいては店内の空気がピリピリと張り詰めてきたころ、今となってはほとんど思い出になっている珍しい相手から携帯にメールが届いた。

『ひさしぶり。今夜、電話で話せる?』

 リクらしい短い文面である。
 彼とは互いに高校卒業してから住んでいる所が離れてしまい、実際に会うことはなくなってしまったが、これまで年に一度くらい、このような形で連絡が来て電話で近況をリクと語り合うことがあった。
 夜、仕事を上がって家に戻ったら電話する、とソラは返信した。