K高校の軽音部は毎年恒例で、部に所属していた卒業生のためにライブハウスを借り切ってイベントを行っていた。

 今年の取りは青山莉久(りく)、村野(そら)、石山徹也、黒川道夫からなる三年生ロックバンド「ウェルカム」となった。
 その最後の曲「SONG FOR YOU」で、今年のイベントは全てのスケジュールが終了し、盛大な拍手と歓声とともに客席の明かりがついた。
 客席にいたパフォーマンス衣装のままの30人ほどの部員たちが一斉にステージに上がり、やがて記念撮影となる。
 リクはその人波の中に二年生の笠原美海(みう)がいるのを見た。
 薄暗いハウスの中でも、色白の顔が際立っている。
 女子生徒にしてはやや長身で、背筋がまっすぐに伸びた姿とわりあい低く響く声のせいで、周りの女子部員と比べると、ひどく大人びて見えた。

 その日かぎりでウェルカムは解散となり、高校の卒業式も終えたあとだったので、以来ミウとはもちろんリクは他のメンバーとも会うことはなかった。
 卒業後は地元を離れて首都圏の大学への進学することが既に決まっていたリクは粛々と転居の準備を進め、あらかじめ決まっていた4月初旬のとある日、見送りのない田舎駅のホームから上り電車に乗り込んだ。

 リクは、それから上京中に両親が別居して実家がなくなったのと、就職活動を都内に限定していたため、結局丸6年もの間、地元に戻ることはなかった。