ぼうけんへの第一歩
「おーい!空音起きろ~!!」
朝7時20分。私、緒方雪見は何をしているのかと言うと――。
ガタガタガタッ。
「は~い……」
朝から似つかない物音とともに二階から登場してきたのは、私の幼馴染の水野空音だ。
幼馴染なのになんで同じ家にいるのかと言うと、私の父と空音の母が高校生からの友達で仲が良く、私たちの家が隣同士だったため、私達が生まれてからもよく遊びにへと行くことが多かったので気が付けば隣に空音がいた……という感じになっていた。
中学卒業後、進路を決めることになった私は空音は当時住んでいたところが田舎で、いい高校があまりなく隣町にある苺町のとある学校に進学を二人共希望していた。
たが、当時住んでいたところと苺町にある学校がかなり遠くて遅くても朝5時には起きて支度しなくてはいけないと知り、迷っていたらお父さんと空音のお母さんが相談していたらしく。
その結果が"同居"になってしまった。
いつも通り夜ご飯を三人で食べていると、お父さんから告げられた衝撃的な言葉。
「二人で一緒に住んでみるのはどうだろう?」
突如お父さんから言われた言葉に理解が出来なくて一回だけスプーンを落としちゃったんだけど、お父さんの話を聞く限り、確かにその方法しかないよなぁと納得してしまった。
私のお母さんも反論はなく、なんなら何か笑顔だったのでその視線を感じながら私は首を縦にふった。
結果、空音と同居をすることに。
今から1ヶ月前から空音とシェアハウスをしていたんだけど、朝に弱い空音は今までにないほどの大寝坊をして、しかもよりにもよって大事な入学初日と被ってしまったのだ。
支度をしながら空音に呼びかけると、眠たそうな目でのっそりと階段を降りてきた空音を見て、「マイペースだなぁ」と心の中でツッコミを入れる。
「そんなのっそりしてないで早く準備しな!これじゃほんとに遅刻しちゃうよ?!」
焦る私とは裏腹にまだのそのそ歩いている空音に言うと、
「今何時?」
と聞かれたので、罰として今から20分早い時間を伝えてあげると、「え、まじ?」とさっきまでとはひどく冷静な声で返されたので「うそ、本当は25分」と正確に伝えてあげた。
「今日って何時に家出ればいいんだっけ?」
「確か、8時15分までについてれば遅刻にならなくて、ここから学校まで20分くらいかかるから45分くらいだと安心かも」
空音はリビングにある時計で時刻を確認してから、
「よし。」
と真剣な声で呟いてから
「……10分間寝ていい?」
とふざけたことを言った。
「また起きなかったら今度は空音のこと置いて出かけるからね?」
「うん。大丈夫~」
空返事をしてソファに体を沈め、また寝ようとする空音。
「せめて寝るからご飯食べて制服に着替えてからにしてー」
「ご飯は登校中に食べるから大丈夫で~す……」
喋ってる最中に寝た空音を見て、あきれた私はまだ制服に着替えて着なかったので、とりあえず制服に着替えて今日の準備の確認をした。
今日は一時間目学活、二時間目入学式、三時間目学活、給食無しの早帰りだ。
どんな人達とクラスになるのかな……ちょっと楽しみだ。
すると、スカートの中から聞き慣れた着信音が鳴った。LINEだ。画面をタップすると、そこには「しおんちゃん」と書かれていて、その名前を見ただけで少し嬉しくなった。
「もしもし。しおんちゃん」
「お、やっほーゆきみん。今日って入学式だよね?」
しおんちゃんとは小学生の時、同じバスケクラブで知り合った親友だ。
でも、小学・中学と同じ学校になることはなく、高校受験に入ってからはメールでもやり取りをすることが少なくなってしまったので話すのは久しぶりだ。
「私のところはそうだよ~。もしかしてしおんちゃんも?てか、しおんちゃんってどこの高校行くの?聞くの忘れてた」
「うん。うちのとこも今日。だよね?伝えんの忘れてた」
「しおんちゃん頭良いし、バスケも上手だから推薦で栃愛高校とか行くのー?」
「えっと、うちのとこはね……なんか『夢の苺学園』みたいなところ。ゆきみんは?どこ行くん~?」
「え、凄い偶然。私もその学校行くよ!同じクラスなれるかなぁ。なれたらいいなぁ」
「なれるでしょ。てか、しくじった……この話昨日してれば昨日の夜、寝ずにゆきみんと同じクラスになれますよーに!ってお願いできたのに。でも同じ学校だから、今はそのことで喜んでるわ」
と、失笑とともにしおんちゃんの笑顔が浮かんできたのでうちも自然と笑顔になった。
「たしかに。うちも喜んでるねじゃあまた学校で ばいばい」
しおんちゃんとの電話を終え、ホーム画面に写し出された時間を見た私は空音を起こし、一緒にご飯を食べて空音の支度が終えてから家を出た。
家から出てしばらく歩くと、遠くに夢の苺学園の校門が見えてきた。周りには私達と同じ制服を着ている人達がいて、私達はその人達と学校まで行こうとしたけど、それは校門にいたとある人物に遮られた。
「ゆきみん~!!!」
それは……。
「え!?しおんちゃん!?」
そう。私の親友の瀬戸口しおんちゃんだ。
……って、さっき電話で話してた人なんだけど。
しおんちゃんは校門から私達のいる少し離れた十字路までダッシュでかけつけてくれた。
「おはよ~ゆきみん。あ、そういえば校門のところにクラス割り貼り出されてたから一緒見よ~」
「おはよう。朝からダッシュってすごい体力あるね」
「うちはバスケ部希望だぞ!朝から元気なくては朝練に支障が出るからね」
朝練、この学校のバスケ部強いのかな?楽しみだなぁ。
「ねね、雪見。これそろそろ行かないと、遅刻になるんじゃない?」
「あ、そっか!はやく行かないと!」
校門の方を見ると、一人ぽつんと立っている男の子が見えた。すると、今度はその人がこっちに走ってきた。
「しおんー。はやく行かないと遅刻すんぞー」
しおんちゃんは彼に「ごめんね~」と笑顔で軽く返事をすると、少し彼と話をしていた。
「急にどっか行くと思えば……。あのバスケちゃんね~」
彼は納得したように胸の前で納得ポーズをした。
「あ、俺はしおんの親友の佐々木夏凛って言うんだ。お名前は?」
「私は緒方雪見。隣にいるのは幼馴染の水野空音。よろしくね!」
夏凛くんと挨拶を交わして一息ついたら、しおんちゃんが一つこんな提案をしてきた。
「ねね、みんな。走れる?」
「え?」
見事に私と空音の声が被った。夏凛くんは「お~、揃ったね」と笑っていた。
「だって時計見て?」
私と空音はまたまたシンクロしてしおんちゃんが指差したところを見ると、8時13分だった。って、遅刻まであと2分じゃん!?
そんな私をよそに、夏凛くんが爽やかな声で言った。
「よーい、ドンッ!」
その掛け声と同時にしおんちゃんと夏凛くんが走り出した。後を追うように私達も走った。
「ギリギリセーフ……!!」
私達、4人がクラスに入ったと同時にチャイムが鳴った。
やった!これで初日から遅刻は免れた!!
そう思っていたら、クラスにいたらしい一見大人しめの眼鏡くんが突然言った。
「ねぇ君たち。これ、席に座るまでだよ」
「えぇー!?!」
うそでしょ、うそでしょ、うそでしょ!?ヤバイじゃん!
「いや、でもまだ先生来てないから大丈夫なはず……」
安堵したような声を空音が洩らした。
確かに!先生にバレなければ、多少遅刻しても大丈夫だよね!
ガチャン。
……あ。
「みんな、おはようー!!」
「ああーーー!!!!」
「え?」
あ、遅刻なっちゃった……。まぁいいや!1日くらい!!大丈夫!!
そう思い、周りを見渡すととても癖の強い顔が3つ並んでいた。
一人はとても見覚えのある、可愛くて撫でたくなるような少し悲しそうな顔。
もう一人はめっちゃ目を見開いてて、眼球が飛び出しそうで、まさに目から鱗だ。
あと、もう一人は……なんか、うん。怖いな。あの鋭い目で多分気の弱い男子二人くらいは余裕で殺してそうな目、してる。絶対あれ周りにキノコ生えてるやつだ……。
「うわあぁぁ……!!」
人を殺しそうな目をしていた彼――夏凛くんが頭を抱えながら悲しそうに叫んだ。
顔を覆った指の隙間から人を射抜く眼差しを先生に向けて、低い声で言い放った。
「な、なんで先生、今来たんですか。これ遅刻になったら先生のせいにしますよ」
いやいや、夏凛くん!?先生になんて……!?ツッコミどころありすぎるんだけど!?
遅刻になったらって、まず遅刻したのが悪いでしょ!あ、でも私達のことしおんちゃんと一緒に待っててくれたから……。
よし、分かったぞ!
「せ、先生!!一つ提案があるんですけど!」
しおんちゃんが少しゾンビ化しながら、夏凛くんと先生に詰め寄っていた。
そんな二人を先生から引き裂くように大きく右手を上げて声を出した。
ふいに三人の顔がこっちを向いた。隣でさっきまで悲しそうな顔をしていた空音は優しい眼差しにハテナがついてそうな目で私を見つめてきた。
私は空音を安心させるように優しく微笑み、先生に提案の内容について話した。
「この二人、しおんちゃんと夏凛くんが遅れたのは私と空音のせいなので、遅刻判定にしないでください!」
「お、やった~!!」
「ゆきみん、ナイスゥ~!」
二人はこっそり私にグットポーズを送ってくれた。
「え、遅刻にはしないようにしてたけど、遅刻してたらその場合って雪見ちゃんがしおんちゃんと夏凛くんの二人分の罪を被るの?」
二人分っていうことはうちの遅刻判定日数は"3"になるっていうこと?
それは庇うって言ったけど、ちょっとさすがに3日分は……。
「あ、ちょっと待って!?」
私は隣にいる私より少し背の高い男子に聞いた。
「ねぇ。元を正せば、今日遅刻したのは朝君が二度寝したからだよね?」
指を指して、警官のように罪人に罪を吐かせようとしたが、無駄だった。
「え?でも、二度寝したおかげで俺は今日も元気に生きてるよ」
何事も無かったかのように彼は動きだし、カバンの中身を机に移して、カバンを片付けようとしていた。
「ちょい、ちょい、ちょい」
空音のロッカーの前に夏凛くんが立ちはだかった。
「何?どうしたの?」
まだ呑気にカバンを揺らしながら鼻歌を歌っていた空音は夏凛くんに問いかけた。
「君……二度寝は禁物だよ」
ヒュ~ッ。
あれ?今のなんだろ?風かな?でも、今めっちゃ晴れてるし、木が揺れてる訳じゃないんだよなぁ。不思議~。
次の瞬間、夏凛くんに何かが勢い良くぶつかった。しおんちゃんだ。
「うわぁ!!何今の!『二度寝は禁物だよ』だよ!あー、ほんと面白いわ!」
大声で笑いながら、倒れかけた夏凛くんの首に手をかけ、空いてる方の手で夏凛くんの頭をバシバシ叩く。
「おまっ、痛いわ!叩くのやめろよ~!」
「はい、夏凛スベった~!!」
本当に朝から元気だよね、しおんちゃん。もともと陽気で明るいんだけど……朝は特にテンションが高いらしい。覚えとこう!
「はい。みんな席についてね~」
先生は手拍子をしてから、私達に言った。先生の司会で朝の会が行われ、一校時目が始まるチャイムが鳴った。
「先生ー!一校時目って何やるんですか~?」
空音が、チャイムが鳴り終わってから質問した。
「これからの授業に使う教材とかは始業式が終わってから渡すらしいから、まず自己紹介しようか!」
ポニーテールを揺らしながら、明るく笑顔で答えた先生は続けて話をした。
「はい!初めは私からいくね~!よし!」
先生は手を叩いて、自己紹介をし始めた。
「私の名前は星 梨里愛です!よろしくね!好きなものはりんごで、年齢は20代前半だよ!教師一年目でこのクラスのみんなと同じ一年生なんだ!私の性格は明るくていつも元気で優しいところかな。」
「誕生日は10月18日だから覚えといてね!私、記憶力高いから、みんなに誕生日に好きなものとか渡すね!ま、色々不安だけど、これからも仲良く頑張ろう!」
自己紹介を終えた先生――りりあ先生はニッコリ笑顔でみんなに手を振っている。その笑顔がとても素敵で可愛かった。
「ねね!せっかくだからさ!愛称決めようよ!」
しおんちゃんが前のめりになりながら、手を大きく上げて話した。
「お!いーね!愛称、何にするの?」
「んー、うちネーミングセンス無いから雪見が決めて!」
「え!?私!?」
「うん!」
急に差されてびっくりした私は頭を悩ませる。
数秒考え込んでから思いきって伝えてみたのは……。
「うーん、梨里愛先生だから……『りり先生』とか?『りりぃ先生』でもいいかも!」
「お!いいね!じゃあみんなは今日から私のことは『りり先生』とか『りりぃ先生』って呼ぶように!間違えても『りんご先生』とかは呼ぶなよー(笑)」
ニッコリ笑顔を浮かべた『りりぃ先生』は、最後にイタズラっぽく私達に注意した。
「よし!今度はみんなの番だよ!誰から発表する?」
みんなが誰から行くか少し相談していたら、
「じゃあ俺から発表するよ!」
と、みんなの様子を見た空音は、爽やかな声で言ったあと、席を立ち、みんなの前に出た。
と、みんなの様子を見た空音は、爽やかな声で言ったあと、席を立ち、みんなの前に出た。
その後、しおんちゃん、夏凛くん、李音くんの順で自己紹介をし、ついに私の番が来た。
ちなみに、なんで私が一番最後に発表するのかというと……。
「空音の発表、すごい爽やかでかっこよかった!!それじゃあ次さどうする~?」
「空音が最初に行ってくれたし、今度は私が行こうかな……」
と、席を立とうとしたらしおんちゃんに「ちょいちょい」と声をかけられて、思わずその場で止まる。
「ん?」
「え、雪見行くの?」
あ、もしかしてしおんちゃん、先行きたかったのかな?
「あ、しおんちゃん先行く?いいよ~」
「そうじゃなくて、雪見は最後でしょ……」
と少し最後の方で笑いながら言われた。
私はポカーンとする。どういうことだろう……。
すると、話を理解したらしい空音がいきなり吹き出した。
「確かに、雪見は最後の方が良いかも笑」
空音にも同じことを言われて余計にポカーンとする。
言い出しっぺのしおんちゃんは夏凛くんに何かを耳打ちしていて、しおんちゃんが口角をあげていた。
……しおんちゃん、夏凛くんに何を耳打ちしたんだろう……。
「あー、それは最後の方がいいわ笑」
夏凛くんもその見た目に似合わないくらいの可愛い顔で笑っていた。
ということがあって、最後になったのだ。
結局、しおんちゃんに夏凛くんに何を耳打ちしたのか聞いたが、はぐらかされてしまい、しょんぼりしていたら、空音に「後で分かるよ」と小声で囁かれた。
はぁ……。一体、何を噂していたんだろう。気になりすぎて夜しか眠れないよ。
少しぼんやりとしょうもないことを考えていたが、すぐに自分の番になってしまった。
これ以上考えるのは良くないと思い、考えるのをやめて前を向き、席を立ってみんなの前へ移動する。
深呼吸を一度してから私は発表を始めた。
「私の名前は、鈴木雪見です。みんな1年間よろしく!えぇっと、好きなものは苺と犬が好きです!それで、おにぎりの具材は鮭が一番好きです!!」
「ええっと、年齢は誕生日がまだ来てないから15歳だよ!私はとても明るくて元気なのが取り柄です!」
発表中、ちらほらクスクスと小さく笑っている人がいた。
まぁ、ほとんどしおんちゃんなんだけど。あと空音とか夏凛くんとか。
李音くんとりりぃ先生だけだよ?ちゃんと私の自己紹介を聞いてくれるのは。
「よしっ!みんな!」
みんなに勢い良く話しかけると、空音がまだ少し笑いながらもしおんちゃんと夏凛くんに静かにするように言ってくれた。
――めちゃくちゃありがとうね!?
よしっ!みんなこっち見てくれたね!!
「1年間、めっちゃ楽しく過ごそうね!改めて……」
とびっきりの笑顔でこう言ったんだ。
「よろしくお願いしま " しゅ " !!」
不思議と場が凍った。
あれ?私の予想だと、みんなからの拍手を受けて、気持ち良く終わるはずなんだけど……。
「え?」
「……え?」
「え?えぇぇぇぇー!!!!!」
大事な最後の最後で、とびっきりのミスをしてしまったのだった。
「おーい!空音起きろ~!!」
朝7時20分。私、緒方雪見は何をしているのかと言うと――。
ガタガタガタッ。
「は~い……」
朝から似つかない物音とともに二階から登場してきたのは、私の幼馴染の水野空音だ。
幼馴染なのになんで同じ家にいるのかと言うと、私の父と空音の母が高校生からの友達で仲が良く、私たちの家が隣同士だったため、私達が生まれてからもよく遊びにへと行くことが多かったので気が付けば隣に空音がいた……という感じになっていた。
中学卒業後、進路を決めることになった私は空音は当時住んでいたところが田舎で、いい高校があまりなく隣町にある苺町のとある学校に進学を二人共希望していた。
たが、当時住んでいたところと苺町にある学校がかなり遠くて遅くても朝5時には起きて支度しなくてはいけないと知り、迷っていたらお父さんと空音のお母さんが相談していたらしく。
その結果が"同居"になってしまった。
いつも通り夜ご飯を三人で食べていると、お父さんから告げられた衝撃的な言葉。
「二人で一緒に住んでみるのはどうだろう?」
突如お父さんから言われた言葉に理解が出来なくて一回だけスプーンを落としちゃったんだけど、お父さんの話を聞く限り、確かにその方法しかないよなぁと納得してしまった。
私のお母さんも反論はなく、なんなら何か笑顔だったのでその視線を感じながら私は首を縦にふった。
結果、空音と同居をすることに。
今から1ヶ月前から空音とシェアハウスをしていたんだけど、朝に弱い空音は今までにないほどの大寝坊をして、しかもよりにもよって大事な入学初日と被ってしまったのだ。
支度をしながら空音に呼びかけると、眠たそうな目でのっそりと階段を降りてきた空音を見て、「マイペースだなぁ」と心の中でツッコミを入れる。
「そんなのっそりしてないで早く準備しな!これじゃほんとに遅刻しちゃうよ?!」
焦る私とは裏腹にまだのそのそ歩いている空音に言うと、
「今何時?」
と聞かれたので、罰として今から20分早い時間を伝えてあげると、「え、まじ?」とさっきまでとはひどく冷静な声で返されたので「うそ、本当は25分」と正確に伝えてあげた。
「今日って何時に家出ればいいんだっけ?」
「確か、8時15分までについてれば遅刻にならなくて、ここから学校まで20分くらいかかるから45分くらいだと安心かも」
空音はリビングにある時計で時刻を確認してから、
「よし。」
と真剣な声で呟いてから
「……10分間寝ていい?」
とふざけたことを言った。
「また起きなかったら今度は空音のこと置いて出かけるからね?」
「うん。大丈夫~」
空返事をしてソファに体を沈め、また寝ようとする空音。
「せめて寝るからご飯食べて制服に着替えてからにしてー」
「ご飯は登校中に食べるから大丈夫で~す……」
喋ってる最中に寝た空音を見て、あきれた私はまだ制服に着替えて着なかったので、とりあえず制服に着替えて今日の準備の確認をした。
今日は一時間目学活、二時間目入学式、三時間目学活、給食無しの早帰りだ。
どんな人達とクラスになるのかな……ちょっと楽しみだ。
すると、スカートの中から聞き慣れた着信音が鳴った。LINEだ。画面をタップすると、そこには「しおんちゃん」と書かれていて、その名前を見ただけで少し嬉しくなった。
「もしもし。しおんちゃん」
「お、やっほーゆきみん。今日って入学式だよね?」
しおんちゃんとは小学生の時、同じバスケクラブで知り合った親友だ。
でも、小学・中学と同じ学校になることはなく、高校受験に入ってからはメールでもやり取りをすることが少なくなってしまったので話すのは久しぶりだ。
「私のところはそうだよ~。もしかしてしおんちゃんも?てか、しおんちゃんってどこの高校行くの?聞くの忘れてた」
「うん。うちのとこも今日。だよね?伝えんの忘れてた」
「しおんちゃん頭良いし、バスケも上手だから推薦で栃愛高校とか行くのー?」
「えっと、うちのとこはね……なんか『夢の苺学園』みたいなところ。ゆきみんは?どこ行くん~?」
「え、凄い偶然。私もその学校行くよ!同じクラスなれるかなぁ。なれたらいいなぁ」
「なれるでしょ。てか、しくじった……この話昨日してれば昨日の夜、寝ずにゆきみんと同じクラスになれますよーに!ってお願いできたのに。でも同じ学校だから、今はそのことで喜んでるわ」
と、失笑とともにしおんちゃんの笑顔が浮かんできたのでうちも自然と笑顔になった。
「たしかに。うちも喜んでるねじゃあまた学校で ばいばい」
しおんちゃんとの電話を終え、ホーム画面に写し出された時間を見た私は空音を起こし、一緒にご飯を食べて空音の支度が終えてから家を出た。
家から出てしばらく歩くと、遠くに夢の苺学園の校門が見えてきた。周りには私達と同じ制服を着ている人達がいて、私達はその人達と学校まで行こうとしたけど、それは校門にいたとある人物に遮られた。
「ゆきみん~!!!」
それは……。
「え!?しおんちゃん!?」
そう。私の親友の瀬戸口しおんちゃんだ。
……って、さっき電話で話してた人なんだけど。
しおんちゃんは校門から私達のいる少し離れた十字路までダッシュでかけつけてくれた。
「おはよ~ゆきみん。あ、そういえば校門のところにクラス割り貼り出されてたから一緒見よ~」
「おはよう。朝からダッシュってすごい体力あるね」
「うちはバスケ部希望だぞ!朝から元気なくては朝練に支障が出るからね」
朝練、この学校のバスケ部強いのかな?楽しみだなぁ。
「ねね、雪見。これそろそろ行かないと、遅刻になるんじゃない?」
「あ、そっか!はやく行かないと!」
校門の方を見ると、一人ぽつんと立っている男の子が見えた。すると、今度はその人がこっちに走ってきた。
「しおんー。はやく行かないと遅刻すんぞー」
しおんちゃんは彼に「ごめんね~」と笑顔で軽く返事をすると、少し彼と話をしていた。
「急にどっか行くと思えば……。あのバスケちゃんね~」
彼は納得したように胸の前で納得ポーズをした。
「あ、俺はしおんの親友の佐々木夏凛って言うんだ。お名前は?」
「私は緒方雪見。隣にいるのは幼馴染の水野空音。よろしくね!」
夏凛くんと挨拶を交わして一息ついたら、しおんちゃんが一つこんな提案をしてきた。
「ねね、みんな。走れる?」
「え?」
見事に私と空音の声が被った。夏凛くんは「お~、揃ったね」と笑っていた。
「だって時計見て?」
私と空音はまたまたシンクロしてしおんちゃんが指差したところを見ると、8時13分だった。って、遅刻まであと2分じゃん!?
そんな私をよそに、夏凛くんが爽やかな声で言った。
「よーい、ドンッ!」
その掛け声と同時にしおんちゃんと夏凛くんが走り出した。後を追うように私達も走った。
「ギリギリセーフ……!!」
私達、4人がクラスに入ったと同時にチャイムが鳴った。
やった!これで初日から遅刻は免れた!!
そう思っていたら、クラスにいたらしい一見大人しめの眼鏡くんが突然言った。
「ねぇ君たち。これ、席に座るまでだよ」
「えぇー!?!」
うそでしょ、うそでしょ、うそでしょ!?ヤバイじゃん!
「いや、でもまだ先生来てないから大丈夫なはず……」
安堵したような声を空音が洩らした。
確かに!先生にバレなければ、多少遅刻しても大丈夫だよね!
ガチャン。
……あ。
「みんな、おはようー!!」
「ああーーー!!!!」
「え?」
あ、遅刻なっちゃった……。まぁいいや!1日くらい!!大丈夫!!
そう思い、周りを見渡すととても癖の強い顔が3つ並んでいた。
一人はとても見覚えのある、可愛くて撫でたくなるような少し悲しそうな顔。
もう一人はめっちゃ目を見開いてて、眼球が飛び出しそうで、まさに目から鱗だ。
あと、もう一人は……なんか、うん。怖いな。あの鋭い目で多分気の弱い男子二人くらいは余裕で殺してそうな目、してる。絶対あれ周りにキノコ生えてるやつだ……。
「うわあぁぁ……!!」
人を殺しそうな目をしていた彼――夏凛くんが頭を抱えながら悲しそうに叫んだ。
顔を覆った指の隙間から人を射抜く眼差しを先生に向けて、低い声で言い放った。
「な、なんで先生、今来たんですか。これ遅刻になったら先生のせいにしますよ」
いやいや、夏凛くん!?先生になんて……!?ツッコミどころありすぎるんだけど!?
遅刻になったらって、まず遅刻したのが悪いでしょ!あ、でも私達のことしおんちゃんと一緒に待っててくれたから……。
よし、分かったぞ!
「せ、先生!!一つ提案があるんですけど!」
しおんちゃんが少しゾンビ化しながら、夏凛くんと先生に詰め寄っていた。
そんな二人を先生から引き裂くように大きく右手を上げて声を出した。
ふいに三人の顔がこっちを向いた。隣でさっきまで悲しそうな顔をしていた空音は優しい眼差しにハテナがついてそうな目で私を見つめてきた。
私は空音を安心させるように優しく微笑み、先生に提案の内容について話した。
「この二人、しおんちゃんと夏凛くんが遅れたのは私と空音のせいなので、遅刻判定にしないでください!」
「お、やった~!!」
「ゆきみん、ナイスゥ~!」
二人はこっそり私にグットポーズを送ってくれた。
「え、遅刻にはしないようにしてたけど、遅刻してたらその場合って雪見ちゃんがしおんちゃんと夏凛くんの二人分の罪を被るの?」
二人分っていうことはうちの遅刻判定日数は"3"になるっていうこと?
それは庇うって言ったけど、ちょっとさすがに3日分は……。
「あ、ちょっと待って!?」
私は隣にいる私より少し背の高い男子に聞いた。
「ねぇ。元を正せば、今日遅刻したのは朝君が二度寝したからだよね?」
指を指して、警官のように罪人に罪を吐かせようとしたが、無駄だった。
「え?でも、二度寝したおかげで俺は今日も元気に生きてるよ」
何事も無かったかのように彼は動きだし、カバンの中身を机に移して、カバンを片付けようとしていた。
「ちょい、ちょい、ちょい」
空音のロッカーの前に夏凛くんが立ちはだかった。
「何?どうしたの?」
まだ呑気にカバンを揺らしながら鼻歌を歌っていた空音は夏凛くんに問いかけた。
「君……二度寝は禁物だよ」
ヒュ~ッ。
あれ?今のなんだろ?風かな?でも、今めっちゃ晴れてるし、木が揺れてる訳じゃないんだよなぁ。不思議~。
次の瞬間、夏凛くんに何かが勢い良くぶつかった。しおんちゃんだ。
「うわぁ!!何今の!『二度寝は禁物だよ』だよ!あー、ほんと面白いわ!」
大声で笑いながら、倒れかけた夏凛くんの首に手をかけ、空いてる方の手で夏凛くんの頭をバシバシ叩く。
「おまっ、痛いわ!叩くのやめろよ~!」
「はい、夏凛スベった~!!」
本当に朝から元気だよね、しおんちゃん。もともと陽気で明るいんだけど……朝は特にテンションが高いらしい。覚えとこう!
「はい。みんな席についてね~」
先生は手拍子をしてから、私達に言った。先生の司会で朝の会が行われ、一校時目が始まるチャイムが鳴った。
「先生ー!一校時目って何やるんですか~?」
空音が、チャイムが鳴り終わってから質問した。
「これからの授業に使う教材とかは始業式が終わってから渡すらしいから、まず自己紹介しようか!」
ポニーテールを揺らしながら、明るく笑顔で答えた先生は続けて話をした。
「はい!初めは私からいくね~!よし!」
先生は手を叩いて、自己紹介をし始めた。
「私の名前は星 梨里愛です!よろしくね!好きなものはりんごで、年齢は20代前半だよ!教師一年目でこのクラスのみんなと同じ一年生なんだ!私の性格は明るくていつも元気で優しいところかな。」
「誕生日は10月18日だから覚えといてね!私、記憶力高いから、みんなに誕生日に好きなものとか渡すね!ま、色々不安だけど、これからも仲良く頑張ろう!」
自己紹介を終えた先生――りりあ先生はニッコリ笑顔でみんなに手を振っている。その笑顔がとても素敵で可愛かった。
「ねね!せっかくだからさ!愛称決めようよ!」
しおんちゃんが前のめりになりながら、手を大きく上げて話した。
「お!いーね!愛称、何にするの?」
「んー、うちネーミングセンス無いから雪見が決めて!」
「え!?私!?」
「うん!」
急に差されてびっくりした私は頭を悩ませる。
数秒考え込んでから思いきって伝えてみたのは……。
「うーん、梨里愛先生だから……『りり先生』とか?『りりぃ先生』でもいいかも!」
「お!いいね!じゃあみんなは今日から私のことは『りり先生』とか『りりぃ先生』って呼ぶように!間違えても『りんご先生』とかは呼ぶなよー(笑)」
ニッコリ笑顔を浮かべた『りりぃ先生』は、最後にイタズラっぽく私達に注意した。
「よし!今度はみんなの番だよ!誰から発表する?」
みんなが誰から行くか少し相談していたら、
「じゃあ俺から発表するよ!」
と、みんなの様子を見た空音は、爽やかな声で言ったあと、席を立ち、みんなの前に出た。
と、みんなの様子を見た空音は、爽やかな声で言ったあと、席を立ち、みんなの前に出た。
その後、しおんちゃん、夏凛くん、李音くんの順で自己紹介をし、ついに私の番が来た。
ちなみに、なんで私が一番最後に発表するのかというと……。
「空音の発表、すごい爽やかでかっこよかった!!それじゃあ次さどうする~?」
「空音が最初に行ってくれたし、今度は私が行こうかな……」
と、席を立とうとしたらしおんちゃんに「ちょいちょい」と声をかけられて、思わずその場で止まる。
「ん?」
「え、雪見行くの?」
あ、もしかしてしおんちゃん、先行きたかったのかな?
「あ、しおんちゃん先行く?いいよ~」
「そうじゃなくて、雪見は最後でしょ……」
と少し最後の方で笑いながら言われた。
私はポカーンとする。どういうことだろう……。
すると、話を理解したらしい空音がいきなり吹き出した。
「確かに、雪見は最後の方が良いかも笑」
空音にも同じことを言われて余計にポカーンとする。
言い出しっぺのしおんちゃんは夏凛くんに何かを耳打ちしていて、しおんちゃんが口角をあげていた。
……しおんちゃん、夏凛くんに何を耳打ちしたんだろう……。
「あー、それは最後の方がいいわ笑」
夏凛くんもその見た目に似合わないくらいの可愛い顔で笑っていた。
ということがあって、最後になったのだ。
結局、しおんちゃんに夏凛くんに何を耳打ちしたのか聞いたが、はぐらかされてしまい、しょんぼりしていたら、空音に「後で分かるよ」と小声で囁かれた。
はぁ……。一体、何を噂していたんだろう。気になりすぎて夜しか眠れないよ。
少しぼんやりとしょうもないことを考えていたが、すぐに自分の番になってしまった。
これ以上考えるのは良くないと思い、考えるのをやめて前を向き、席を立ってみんなの前へ移動する。
深呼吸を一度してから私は発表を始めた。
「私の名前は、鈴木雪見です。みんな1年間よろしく!えぇっと、好きなものは苺と犬が好きです!それで、おにぎりの具材は鮭が一番好きです!!」
「ええっと、年齢は誕生日がまだ来てないから15歳だよ!私はとても明るくて元気なのが取り柄です!」
発表中、ちらほらクスクスと小さく笑っている人がいた。
まぁ、ほとんどしおんちゃんなんだけど。あと空音とか夏凛くんとか。
李音くんとりりぃ先生だけだよ?ちゃんと私の自己紹介を聞いてくれるのは。
「よしっ!みんな!」
みんなに勢い良く話しかけると、空音がまだ少し笑いながらもしおんちゃんと夏凛くんに静かにするように言ってくれた。
――めちゃくちゃありがとうね!?
よしっ!みんなこっち見てくれたね!!
「1年間、めっちゃ楽しく過ごそうね!改めて……」
とびっきりの笑顔でこう言ったんだ。
「よろしくお願いしま " しゅ " !!」
不思議と場が凍った。
あれ?私の予想だと、みんなからの拍手を受けて、気持ち良く終わるはずなんだけど……。
「え?」
「……え?」
「え?えぇぇぇぇー!!!!!」
大事な最後の最後で、とびっきりのミスをしてしまったのだった。

