夢の苺学園


「おーい!空音起きろ~!!」
 
 朝7時38分。私、緒方雪見は何をしているのかと言うと――。
 ガタガタガタッ。
 
「は~い……」
 
 朝から似つかない物音とともに二階から登場してきたのは、私の幼馴染の水野空音だ。
 私の父と空音の母が高校生からの友達で仲が良く、私たちの家が隣同士だったため、私達が生まれてからもよく遊びにへと行くことが多かったので気が付けば隣に空音がいた……という感じになっていた。
 そのまま続いて中学卒業後、進路を決めることになった私と空音は当時住んでいたところが田舎で、私たちが行きたい!って思える高校も、そもそも高校自体がなく、そんな時に隣町にある苺町のとある学校の新入生を勧誘するポスターが町中に貼られていて、そのポスターを読んでみるといい感じの学校だったので、その学校に進学を希望した。
 だが、当時住んでいたところと苺町にある学校がかなり遠くて遅くても朝5時には起きて支度しなくてはいけないと知り、迷っていたらお父さんと空音のお母さんが相談していたらしく。
 ーーその結果が"同居(これ)"になってしまった。


 いつも通り夜ご飯を三人で食べていると、お父さんから告げられた衝撃的な言葉。
 
「二人で一緒に住んでみるのはどうだろう?」
 
 突如お父さんから言われた言葉に理解が出来なくてスプーンを落としちゃったんだけど、お父さんの話を聞く限り、確かにその方法しかないよなぁと納得してしまった。
私のお母さんも反論はなく、なんなら何か笑顔だったのでその視線を感じながら私は首を縦にふった。


 今から1ヶ月前から空音とシェアハウスをしていたんだけど、朝に弱い空音は今までにないほどの大寝坊をして、しかもよりにもよって大事な入学初日と被ってしまったのだ。入学初日に遅刻は流石に怒られるよぉ〜!!
 支度をしながら空音に呼びかけると、眠たそうな目でのっそりと階段を降りてきた空音を見て、「マイペースだなぁ」と心の中でツッコミを入れる。
 
「そんなのっそりしてないで早く準備しな!これじゃほんとに遅刻しちゃうよ?!」
 
 焦る私とは裏腹にまだのそのそ歩いている空音に言うと、
 
「今何時?」
 
 と聞かれたので、罰として今から20分早い時間を伝えてあげると、「え、まじ?」とさっきまでとはひどく冷静な声で返されたので「うそ、本当は45分」と正確に伝えてあげた。
 
「今日って何時に家出ればいいんだっけ?」
「確か、8時15分までについてれば遅刻にならなくて、ここから学校まで歩って20分くらいかかるから最低でも50分にはっ......」
 
 空音はリビングにある時計で時刻を確認してから、私が話している途中に
 
「よし。」
 
 と真剣な声で呟いてから
 
「……5分間寝ていい?」
 
 とふざけたことを言った。

「えぇ?今日入学式なんだよ!?」
「大丈夫、大丈夫。歩いて20分なら走って10分で着くから〜」
 
「また起きなかったら今度は空音のこと置いて出かけるからね?」
「うん。大丈夫~」

 空返事をしてソファに体を沈め、また寝ようとする空音。
 
「せめて寝るならご飯食べて制服に着替えてからにしてー」
 「ご飯は登校中に食べるから大丈夫で~……」
 
 喋ってる最中に寝た空音を見て、あきれた私はまだ制服に着替えて着なかったので、とりあえず制服に着替えて今日の準備の確認をした。
 今日は一時間目学活、二時間目入学式、三時間目学活、給食無しの早帰りだ。
 どんな人達とクラスになるのかな……ちょっと楽しみだ。
 すると、ポケットの中から聞き慣れた着信音が鳴った。LINEだ。画面をタップすると、そこには「しおたん」と書かれていて、その名前を見ただけで少し嬉しくなった。
 
「もしもし。しーちゃん」
「お、やっほーゆきみん。今日って入学式だよね?」
 
 しーちゃんとは小学生の時、同じバスケクラブで知り合った親友だ。
 でも、小学・中学と同じ学校になることはなく、高校受験に入ってからはメールでもやり取りをすることが少なくなってしまったので話すのは久しぶりだ。
 
「そうだよ~。てか、しーちゃんってどこの高校行くの?聞くの忘れてた」
「うん。だよね?伝えんの忘れてた」
「しーちゃん頭良いし、バスケも上手だから推薦で栃愛高校とか行くのー?」
「えっと、うちのとこはね……なんか『夢のほんチャラかんチャラ〜」みたいなところ。ゆきみんは?どこ行くん~?」
「え、凄い偶然。私もその学校行くよ!同じクラスなれるかなぁ。なれたらいいなぁ」
「なれるでしょ。てか、しくじった……この話昨日してれば昨日の夜、寝ずにゆきみんと同じクラスになれますよーに!ってお願いできたのに。でも同じ学校だから、今はそのことで喜んでるわ」

 と、失笑とともにしおたんの笑顔が浮かんできたので私も自然と笑顔になった。
 あと、さすがに寝ないでお願い、は言いすぎだよ!うれしいけどさ!笑
 
「たしかに、私も喜んでるね!じゃあまた学校で、ばいばい!」
 
 しおんちゃんとの電話を終え、ホーム画面に写し出された時間を見た私は空音を起こし、急ぎ足で家を出た。




 家から出てしばらく走ると、遠くに夢の苺学園の校門が見えてきた。周りには私達と同じ制服を着ている人達がいて、私達は歩いてその人達と学校まで行こうとしたけど、それは校門にいたとある人物に遮られた。
 
「ゆーきみーん~!!!」
 
 この声は……。
 
「え!?しーちゃん!?」
 
 そう。私の親友の瀬戸口(せとぐち)しおん、通称「しーちゃん」だ。
 ……って、さっき電話で話してた人なんだけど。
 しおたんは校門から私達のいる少し離れた十字路までダッシュでかけつけてくれた。
 
「おはよ~ゆきみん!あ、そういえば校門のところにクラス割り貼り出されてたから一緒見よ~」
「おはようしーちゃん!朝からダッシュってすごい体力あるね」
「うちはバスケ部希望だぞ!朝から元気なくては朝練に支障が出るからね」
 
 朝練あるんだ。この学校のバスケ部強いのかな?どうなんだろう!楽しみだなぁ。
 
「ねね、ゆきみん」
「どうしたのしーちゃん」
「これそろそろ行かないと、遅刻になるんじゃない?」
「あ、そーだよ!はやく行かないと!」
 
 校門の方を見ると、一人ぽつんと立っている男の子が見えた。すると、今度はその人がこっちに声をかけながら歩ってきた。
 
「しおんー。はやく行かないと遅刻すんぞー」
 
 しーちゃんは彼に「めんご めんご~」と笑顔で軽く返事をすると、少し彼と話をしていた。
 
「急にどっか行くと思えば……。あのバスケの子ね~」
 
 彼は私を少し見て納得したように胸の前で納得ポーズをした。
 
「あ、俺はしおんの親友の佐々木夏凛(ささきかりん)って言うんだ。しおんと小中って同じ学校でそれで」
「そうなんだ!私は緒方雪見だよ、隣にいるのは幼馴染の水野空音。よろしくね!」
「俺のこと呼び捨てでいいから、俺も二人のこと呼び捨てにするね」
「うん!わかった!よろしく、夏凛!」
「よろしく、雪見、空音」
「よろしく〜」
 
 夏凛と挨拶を交わし終わると、しーちゃんが一つこんな提案をしてきた。
 
「ねね、みんな。走れる?」
「え?」
 
 見事に私と空音の声が被った。夏凛は「お~、揃ってる」と笑っていた。
 
「だって時計見て?」
 
 私と空音はまたまたシンクロしてしーちゃんが指差したところを見ると、8時13分だった。って、遅刻まであと2分じゃん!?
 そんな私たちをよそに、夏凛が爽やかな声で言った。
 
「よーい、ドンッ!」
 
 その掛け声と同時にしーちゃんと夏凛が走り出した。後を追うように私たちも走り出した。




「ギリギリセーフ……!!」
 
 私達、4人がクラスに入ったと同時にチャイムが鳴った。
 やった!これで初日から遅刻は免れた!!
 そう思っていたら、クラスにいた眼鏡をかけてる人が突然言った。
 
「ねぇ君たち。これ、席に座るまでだよ」
「えぇー!?!」

 うそでしょ、うそでしょ、うそでしょ!?ヤバイじゃん!

「いや、でもまだ先生来てないから大丈夫なはず……」
 
 安堵したような声をしーちゃんが洩らした。
 確かに!先生にバレなければ、多少遅刻しても大丈夫だよn、、、。
 ガチャン。
 ……あ。
 
「みんな、おはようー!!」
「ああーーー!!!!」
「え?」
 
 あ、遅刻なっちゃった……。まぁいいや!1日くらい!!大丈夫!!
 そう思い、周りを見渡すととても癖の強い顔が3つ並んでいた。
 一人はとても見覚えのある、可愛くて撫でたくなるような少し悲しそうな顔。
 もう一人はめっちゃ目を見開いてて、眼球が飛び出しそうで、まさに目から鱗だ。
 あと、もう一人は……なんか、うん。怖いな。あの鋭い目で多分三人くらいは余裕で殺してそうな目、してる。絶対あれ周りに毒キノコ生えてるやつだ……。
 
「うわあぁぁ……!!」

 人を殺しそうな目をしていた彼――夏凛が頭を抱えながら悲しそうに叫んだ。
 顔を覆った指の隙間から人を射抜く眼差しを先生に向けて、低い声で言い放った。
 
「な、なんで先生、今来たんですか。これ遅刻になったら先生のせいにしますよ」
 
 いやいや、夏凛!?先生になんて……!?しかもツッコミどころありすぎるんだけど!?
 遅刻になったらって、まず遅刻したのが悪いでしょ!あ、でも私たちのことしーちゃんと一緒に待っててくれたから……。
 よし、分かったぞ!
 
「せ、先生!!一つ提案があるんですけど!」
 
 しーちゃんが眼球を飛び出したゾンビ化しながら、夏凛と先生に詰め寄っていた。
 そんなしーちゃんを先生から引き裂くように大きく右手を上げて声を出した。
 ふいに三人の顔がこっちを向いた。隣でさっきまで悲しそうな顔をしていた空音は、優しい眼差しにハテナがついてそうな目で私を見つめてきた。
 私は空音を安心させるように優しく微笑み、先生に提案の内容について話した。
 
「この二人、しーちゃんと夏凛が遅れたのは私と空音のせいなので、遅刻判定にしないでください!」
「お、やった~!!」
「ゆきみん、ナイスゥ~!」
 
 二人はこっそり私にグットポーズを送ってくれた。
 
「え、遅刻にはしないようにしてたけど、遅刻してたらその場合って雪見ちゃんがしーちゃんと夏凛の二人分の罪を被るの?」
 
 二人分っていうことはうちの遅刻判定日数は"3"になるっていうこと?
 それは庇うって言ったけど、ちょっとさすがに三日分は……。
って、あれ......そういえば......。
 
「あ、ちょっと待って!?」

 私は隣にいる私より少し背の高い人に聞いた。
 
「ねぇ。元を正せば、今日遅刻したのは朝、きみが二度寝したからだよね?」
 
 指を指して、警官のように罪人に罪を吐かせようとしたが、
 
「え?でも、二度寝したおかげで僕は今日も元気に生きてるよ」
 
 無駄だった。
 当人は何事も無かったかのように動きだし、カバンの中身を机に移して、カバンを片付けようとしていた。
 
 「ちょい、ちょい、ちょい」
 
 空音のロッカーの前に夏凛が立ちはだかった。
 
「何?どうしたの?」
 
 まだ呑気にカバンを揺らしながら鼻歌を歌っていた空音は夏凛に問いかけた。
 
「君……二度寝は禁物だよ」
 
 ヒュ~ッ。
 あれ?今のなんだろ?風かな?でも、今めっちゃ晴れてるし、木が揺れてる訳じゃないんだよなぁ。不思議~。

 次の瞬間、夏凛に何かが勢い良くぶつかった。しーちゃんだ。
 
「うわぁ!!何今の!『二度寝は禁物だよ』だよ!あー、ほんと面白いわ!」
 
 大声で笑いながら、倒れかけた夏凛の首に手をかけ、空いてる方の手で夏凛の頭をバシバシ叩く。

「おまっ、痛いわ!叩くのやめろよ~!」
「はい、かりんとうスベった~!!」
「かりんとうってまじやめろwお前そしたら萎れたレモンだぞ」
「萎れてないです〜今日も元気だからな!」
 
 二人のやり取りを聞きながら、うんうん と頷いてしまった。
 本当に朝から元気だよね、しーちゃん。もともと陽気で明るいんだけど……朝は特にテンションが高いらしい。覚えとこう!
 
「はい。楽しんでるところ悪いけど、みんな席についてね~」
 
 先生は手拍子をしてから、私たちに言った。先生の司会で朝の会が行われ、一校時目が始まるチャイムが鳴った。