隕石のことを別名で、星石と言うらしい。
 私からしたらそれはクラゲのことを海月と書くことよりも大分しっくりくるんだけれど、隣に寝転がったきみの横顔はあんまり納得していないように見えた。

「そもそも、隕石って宇宙空間から地球上に落っこちてきた石ころのことだろ」
「でもさあ、それを星石っていうのがなんだか素敵だと思わない? だってそれってつまり、隕石は星の欠片ってことだよね」

 屋根の上、肩を並べながら寝転ぶきみと私の真上には月と星が光って見える。それはまるで宇宙空間に迷い込んだみたいだと思ったけれど、この頬に当たっている風は宇宙では存在しないらしい。行ったことなんてないからわかんないけど。

「じゃあ、今日見えるはずの流星群がもしここに落ちてきたとしたら、それは星の欠片ってことか」
「そうだよ、なんかロマンチックだね」
「アホか。星が俺らめがけて落ちてきたらたぶん命ない」
「ああそっか、そしたらふたり一緒に死んじゃうんだね」

 宇宙空間から地球上に落っこちた星の欠片。人はそれを隕石と呼ぶらしい。
 星の石の方が素敵じゃない。でもそう言ったらきみはたぶん、どっでもいいよそんなことって笑うんだろう。

「星の欠片、どこに落ちるんだろうな」
「できれば森の中とか人間に被害を及ぼさない場所がいいね」
「ああ。でも今なら、ここへ落ちてきても構わないとも思うよ」

 ギシ、と屋根が鳴った。滑り落ちんなよってきみが言う。滑り落ちそうになったらお前も道連れにしてやるって返したら、きみは嬉しそうにふざけんなって言っていた。

「流星群見たら寝に帰ろうね」
「明日の朝早いんだっけ?」
「うんそう、6時半には出なきゃいけないの」

 きみはずっと星を眺めていた。私はそんなきみの横顔を見つめていた。星がここへ落ちてきたらいいのに。そしたらふたりで死んじゃえるのにね。

「東京に行ったらこんなに星見えないのかなあ」
「さあな。でもこんな夜中に一緒に星を見てやるいい奴はここにしかいないかもな」
「それはない」
「なんだとてめえ」
 
 明日の朝きみとバイバイする時悲しくないようにって、星が見たいと言い出したのはわたし。よく見えるからと屋根に登ろうと言ったのはきみ。
 流星群が見えたらいっぱいお願い事をしようなんて思っていたけど、今のお願い事はたったひとつだけ。

「はやく、大人になりたい」

 きみの横顔はずっとおなじまま。手を伸ばしたら届く距離。だけど、手を伸ばさなかったら届かない距離にきみはいる。

「東京に行ったらおまえ変わるんだろうなあ。派手になって帰ってきても誰か気づいてやらねえからな」
「残念ながら私が先にきみに気づいてどこまでも追いかけ回すので気づかれなくても結構です」

 星が落っこちてくればいいのに。そしたら、きみの泣いちゃいそうな泣き顔を守ってあげられる気がするのに。

「どこに落ちるのかな、星の欠片」
「宇宙の彼方、遥か先。俺らの元になんて届かねーよ」

 ああそうか。星はここへはやってこない。
 私たちは明日バイバイする。サヨナラ、また会う日まで。私はそんなありきたりな言葉を言って、きみに手を振るんだ。そしたらきっときみは笑って、サヨナラいってらっしゃいって言うんだ。

「ねえ、もし星がここに落ちたら、その時は私のために拾っておいてね」
「おう、任せろ。もし東京に星の欠片が落ちてたら、ちゃんと拾って俺まで見せにこいよ」
「しょうがないなあ」
 
 ずっと空を見ていたきみが首を動かして私を見た。私はさっきからずっときみのこと見てたんだけどね。でも偶然目があってしまったみたいに振舞ってみたよ。きみはきっと全部わかっているんだろうけどさ。
 星は落ちない。だけどいつか、宇宙から地球上に落っこちた星の欠片を一緒に探しに行こうよ。隕石って呼ぶんじゃなくて、星石って呼ぼうね。そしたらなんだかロマンチックな感じがするでしょう。そう言ったらきみは、私の目を見て しょうがないなあ って笑った。




【落ちていった星の行方】