私は、ある人物に会いに行った。
「あなたが、影さん、ですね?」
その人物は人懐っこい笑顔で私の名を呼んだ。
「なんのご用でしょう?」
「お礼を言いに来ました。憎い男を、、殺してくれたので。」
「お礼、、。詳しく聴かせてくれませんか?」
不敵に笑った。
まだ30代前半と思えるが、堂々とした態度だ。
「私は、ある男に息子を殺されました。その犯人は、、捕まりました。そして、こう証言しました。
『大学の先輩に脅されて、無免許運転をさせられました。本当に、申し訳ありませんでした。こんなこと言っても、僕の罪は許されないとわかっています。でも、、これだけは言わせてください。お金を取られ、脅され、いじめられ、もう、限界でした。罪を償うため、僕は死にます。』
と。これを聴いた時、正直嘘だと思いました。でも、、犯人は自殺しました。彼の言ったことは、本当だった。本気で、私に話してくれたんだとわかりました。私は犯人を脅した人物を探しました。あらゆる手を使って。そして、ある人物が浮かびました。
それが、、坂本健次郎です。」
雨夜が私に語った過去が一部だったように、私の語った過去も、、一部だった。
「それを知っていたから、雨夜を、いえ、裏山夜雨を私に紹介したんじゃないんですか?夜雨の叔母で、情報屋の裏山ひなたさん。」
私は、目の前に座る人物の名を言った。
「そうですね、、。あなたがなにか、あいつに恨みを持っているのは知っていましたが、詳しくはわかっていませんでした。、、ところで、あなたは私の過去を知っていますか?」
私は黙って首を横に振った。
「では、それを知ってもらってから、あなたの考えを聴かせてください。朝霧火影さん?」
私の名を口にした。
私のことを試しているのだろう、、。
──私よりも、若いくせに、、なめられたものですね。ですが、私たちの方が、、。上手ですからね、、。
私は心の中でそう呟きながらひなたを見つめた。
「あれは、、8年前。」
◆◆◆
私、裏山ひなたには、婚約者がいた。
でも、彼は逮捕された。
飲酒運転をして人を殺したから。
それも、私の兄、裏山星夜だった。
彼は気の弱い人だった。
声を震わせながら、
「僕はやっていない。ただ、後ろに座っていただけなんだ。上司に、、命令されて、、。」
と私に必死に訴えた。
そして、精神を病んでしまった。
私の兄がその事故で亡くなったことも影響しているようだった。
そして、、彼は自ら命を絶ってしまった。
その後、私のお腹の赤ちゃんも、、彼を追うように逝った。
流産だった。
まだ小さな、小さな命だったけれど、私の失ったものはとても大きかった。
私は、彼にも、赤ちゃんにも、なにもしてあげることができなかった。
彼を支えること、赤ちゃんを丈夫に産んであげること、赤ちゃんを、彼のかわりに元気に育て上げること。
なにも、、できなかった。
そして、私は、本当の犯人を見つけようとした。
彼の証言から、彼の上司、坂本健次郎が本当の犯人だと、確信した。
そして、そいつを殺そうと、決意した。
◆◆◆
「これが、私とあの男との関係です。」
どうぞ、というふうにひなたは手を差した。
私の考えを求めているのだろう。
私は小さく息を吐き、口を開いた。
「あなたがあの男を殺そうと思ったのはその出来事からでしょう。そして、新聞記者の傍ら、情報屋としての仕事もするようになった。あの男について調べるのが目的でしょう。そして、殺す機会をうかがっていた。そんな時、星夜さんの妻、あなたの義理の姉、月光さんが、あの男と付き合っていると知った。だから彼女を使おうと考えた。自分の手を汚さずに殺すことができるのではないか、そう思ったんじゃないですか?」
「確かに、彼女を使おうとは思っていました。ですが、自分の手を汚すことに、私は抵抗はありませんでしたよ?」
ひなたは口角をあげ、私に向かって微笑んだ。
まるで、あなたと同じですよ、と言われているように感じた。
「、、そして、あなたは計画を変更した。この記事はあなたが書いたものですよね?」
と私はひなたに差し出した。
彼女は微笑んだまま、なにも言わなかった。
「この記事を月光さんに見せた。同時に、あの男にとってあなたはただの遊びとしか考えていない。本当の家庭の写真や、本当の住所を教えた。これを見せ、逆上させ、あわよくば殺してもらおうと思った。だが、逆に月光さんはショックで自殺してしまう。
ですが、彼女が自殺したのは、、これだけが理由ではないでしょうね、、。あの男のある計画に自分が使われていたことも」
「待ってください!」
ひなたは私の話に口を挟んだ。
「なんです?」
「どうして、、その話を、、?」
ひなたの顔に動揺の色が浮かんだ。
「私は、10年余り、あの男を追ってきたんですよ?」
「、、続けてください。」
悔しそうに唇を噛んだ。
「このままでは、あなたの計画が破綻してしまう。そんな時、夜雨が現れた。
『坂本健次郎という男を殺したい。そのために殺しが学べる場所はないですか?』
と、言って。だから、夜雨を此処に紹介したのですよね?」
ひなたは黙って微笑んだ。
私はそれを、あっている、というふうに解釈し、話を続けた。
「そしてあなたは、夜雨に復讐をさせようと踏んだ。」
「失礼ですね。私は手を汚そうと思えば汚せる人間だと先ほど言ったじゃないですか。」
「ですが、使える人間がいれば、その人を利用するでしょう?」
「、、まぁ、否定はできませんね。、、夜雨が突然私の元に来たのは驚きました。まだ中学を卒業したばかりの少女が、復讐をしたいと言ってきたんですよ?私は、あの子はまだ子供だと思っていました。」
遠い目をしてひなたが言った。
「それは、私も同感です。、、そして、あなたは私を紹介した。同じ男に恨みを持ち、裏で殺し屋をしている私たちを。」
「そうです。」
彼女は頷いた。
「一つ、聞きたいことがあるのですが。あの子は裏であなたが動いていたのを知っていたんですか?」
「いいえ。知りません。私はただ、あの子に仕事先を紹介しただけです。、、ですが、、夜雨のことですから、勘づいているかもしれません。」
──確かに、あの子は賢い子だ。自分が誰かの手のひらの上で踊らされていることも承知の上の判断だったのかもしれない。
「私からも、一つ、聞きたいことが。」
私はどうぞ、と言う風に手を差した。
「いつ、気づかれていたんです?」
ひなたはそう訊いた。
「3年前、夜雨は、、私に母親の話をしてくれました。ですが、それから1年ほど経った頃、夜雨は父をも殺されていた、と、情報を手に入れました。この情報の出処は秘密ですが。あの男に2度も絶望を味あわされた彼女が私の元に来て、殺し屋をしている。私の会社で、わざわざ、此処で雇ってください、と言っていた。、、もしかすると、彼女が此処にいるのは、偶然ではなく、必然なのではないか。これは、仕組まれているのではないか。そう思ったんです。」
「そんな、些細なことで?」
「えぇ。私の会社は殺し屋ですよ。敵もたくさんいる。何事も慎重なんです。」
──ちなみに、えいれい社の社員たちが、えいれい社にいるのは、全員、必然、なんですよ?
私は思わず心の中で呟いた。
お互いに微笑み合った。
口元は笑っていても、目は鋭さが増している。
「そして、夜雨が此処を叔母から知った、と言っていたことを思い出しました。それにより、、あなたの存在に気がつきました。」
「なるほど、、。夜雨に口止めすべきでしたね、、。」
口調の割に後悔はしていなさそうしていなさそうだ。
「あなたが、影さん、ですね?」
その人物は人懐っこい笑顔で私の名を呼んだ。
「なんのご用でしょう?」
「お礼を言いに来ました。憎い男を、、殺してくれたので。」
「お礼、、。詳しく聴かせてくれませんか?」
不敵に笑った。
まだ30代前半と思えるが、堂々とした態度だ。
「私は、ある男に息子を殺されました。その犯人は、、捕まりました。そして、こう証言しました。
『大学の先輩に脅されて、無免許運転をさせられました。本当に、申し訳ありませんでした。こんなこと言っても、僕の罪は許されないとわかっています。でも、、これだけは言わせてください。お金を取られ、脅され、いじめられ、もう、限界でした。罪を償うため、僕は死にます。』
と。これを聴いた時、正直嘘だと思いました。でも、、犯人は自殺しました。彼の言ったことは、本当だった。本気で、私に話してくれたんだとわかりました。私は犯人を脅した人物を探しました。あらゆる手を使って。そして、ある人物が浮かびました。
それが、、坂本健次郎です。」
雨夜が私に語った過去が一部だったように、私の語った過去も、、一部だった。
「それを知っていたから、雨夜を、いえ、裏山夜雨を私に紹介したんじゃないんですか?夜雨の叔母で、情報屋の裏山ひなたさん。」
私は、目の前に座る人物の名を言った。
「そうですね、、。あなたがなにか、あいつに恨みを持っているのは知っていましたが、詳しくはわかっていませんでした。、、ところで、あなたは私の過去を知っていますか?」
私は黙って首を横に振った。
「では、それを知ってもらってから、あなたの考えを聴かせてください。朝霧火影さん?」
私の名を口にした。
私のことを試しているのだろう、、。
──私よりも、若いくせに、、なめられたものですね。ですが、私たちの方が、、。上手ですからね、、。
私は心の中でそう呟きながらひなたを見つめた。
「あれは、、8年前。」
◆◆◆
私、裏山ひなたには、婚約者がいた。
でも、彼は逮捕された。
飲酒運転をして人を殺したから。
それも、私の兄、裏山星夜だった。
彼は気の弱い人だった。
声を震わせながら、
「僕はやっていない。ただ、後ろに座っていただけなんだ。上司に、、命令されて、、。」
と私に必死に訴えた。
そして、精神を病んでしまった。
私の兄がその事故で亡くなったことも影響しているようだった。
そして、、彼は自ら命を絶ってしまった。
その後、私のお腹の赤ちゃんも、、彼を追うように逝った。
流産だった。
まだ小さな、小さな命だったけれど、私の失ったものはとても大きかった。
私は、彼にも、赤ちゃんにも、なにもしてあげることができなかった。
彼を支えること、赤ちゃんを丈夫に産んであげること、赤ちゃんを、彼のかわりに元気に育て上げること。
なにも、、できなかった。
そして、私は、本当の犯人を見つけようとした。
彼の証言から、彼の上司、坂本健次郎が本当の犯人だと、確信した。
そして、そいつを殺そうと、決意した。
◆◆◆
「これが、私とあの男との関係です。」
どうぞ、というふうにひなたは手を差した。
私の考えを求めているのだろう。
私は小さく息を吐き、口を開いた。
「あなたがあの男を殺そうと思ったのはその出来事からでしょう。そして、新聞記者の傍ら、情報屋としての仕事もするようになった。あの男について調べるのが目的でしょう。そして、殺す機会をうかがっていた。そんな時、星夜さんの妻、あなたの義理の姉、月光さんが、あの男と付き合っていると知った。だから彼女を使おうと考えた。自分の手を汚さずに殺すことができるのではないか、そう思ったんじゃないですか?」
「確かに、彼女を使おうとは思っていました。ですが、自分の手を汚すことに、私は抵抗はありませんでしたよ?」
ひなたは口角をあげ、私に向かって微笑んだ。
まるで、あなたと同じですよ、と言われているように感じた。
「、、そして、あなたは計画を変更した。この記事はあなたが書いたものですよね?」
と私はひなたに差し出した。
彼女は微笑んだまま、なにも言わなかった。
「この記事を月光さんに見せた。同時に、あの男にとってあなたはただの遊びとしか考えていない。本当の家庭の写真や、本当の住所を教えた。これを見せ、逆上させ、あわよくば殺してもらおうと思った。だが、逆に月光さんはショックで自殺してしまう。
ですが、彼女が自殺したのは、、これだけが理由ではないでしょうね、、。あの男のある計画に自分が使われていたことも」
「待ってください!」
ひなたは私の話に口を挟んだ。
「なんです?」
「どうして、、その話を、、?」
ひなたの顔に動揺の色が浮かんだ。
「私は、10年余り、あの男を追ってきたんですよ?」
「、、続けてください。」
悔しそうに唇を噛んだ。
「このままでは、あなたの計画が破綻してしまう。そんな時、夜雨が現れた。
『坂本健次郎という男を殺したい。そのために殺しが学べる場所はないですか?』
と、言って。だから、夜雨を此処に紹介したのですよね?」
ひなたは黙って微笑んだ。
私はそれを、あっている、というふうに解釈し、話を続けた。
「そしてあなたは、夜雨に復讐をさせようと踏んだ。」
「失礼ですね。私は手を汚そうと思えば汚せる人間だと先ほど言ったじゃないですか。」
「ですが、使える人間がいれば、その人を利用するでしょう?」
「、、まぁ、否定はできませんね。、、夜雨が突然私の元に来たのは驚きました。まだ中学を卒業したばかりの少女が、復讐をしたいと言ってきたんですよ?私は、あの子はまだ子供だと思っていました。」
遠い目をしてひなたが言った。
「それは、私も同感です。、、そして、あなたは私を紹介した。同じ男に恨みを持ち、裏で殺し屋をしている私たちを。」
「そうです。」
彼女は頷いた。
「一つ、聞きたいことがあるのですが。あの子は裏であなたが動いていたのを知っていたんですか?」
「いいえ。知りません。私はただ、あの子に仕事先を紹介しただけです。、、ですが、、夜雨のことですから、勘づいているかもしれません。」
──確かに、あの子は賢い子だ。自分が誰かの手のひらの上で踊らされていることも承知の上の判断だったのかもしれない。
「私からも、一つ、聞きたいことが。」
私はどうぞ、と言う風に手を差した。
「いつ、気づかれていたんです?」
ひなたはそう訊いた。
「3年前、夜雨は、、私に母親の話をしてくれました。ですが、それから1年ほど経った頃、夜雨は父をも殺されていた、と、情報を手に入れました。この情報の出処は秘密ですが。あの男に2度も絶望を味あわされた彼女が私の元に来て、殺し屋をしている。私の会社で、わざわざ、此処で雇ってください、と言っていた。、、もしかすると、彼女が此処にいるのは、偶然ではなく、必然なのではないか。これは、仕組まれているのではないか。そう思ったんです。」
「そんな、些細なことで?」
「えぇ。私の会社は殺し屋ですよ。敵もたくさんいる。何事も慎重なんです。」
──ちなみに、えいれい社の社員たちが、えいれい社にいるのは、全員、必然、なんですよ?
私は思わず心の中で呟いた。
お互いに微笑み合った。
口元は笑っていても、目は鋭さが増している。
「そして、夜雨が此処を叔母から知った、と言っていたことを思い出しました。それにより、、あなたの存在に気がつきました。」
「なるほど、、。夜雨に口止めすべきでしたね、、。」
口調の割に後悔はしていなさそうしていなさそうだ。