「「よいちゃん!!」」

雨夜が家に帰ると、妹たちが飛びついてきた。

家、と言っても、えいれい社の一階の一室を借りているのだが。

雨夜の双子の妹たち、月雨〔るう〕と光雨〔みう〕は今年で6歳、年長さんだ。

影の手配によって保育園に通うことができている。

ちなみに、『よいちゃん』と言うのは雨夜のあだ名。

昔から、2人は『宵』と呼んでいる。

雨夜はその時のことを思い出した。

◇◇◇


─数年前

「よるちゃん!るうちゃんとみうちゃんがママって言った!」

と急にママが叫んだ。

「2人とも?嘘だ!」

まだよるの『よ』も言われていないのに、ママの『ま』が先?

私は内心焦った。

いっぱいママのお手伝いもしているし、2人のお世話も頑張っている。

なのに、、。

「本当よ。もう一回言って!」

「「マ、ンマ!!」」

本当に妹たちが喋った。

「ホラ!喋ったよ!」

明るい声を出すママ。

まだ、パパが亡くなって、一年も経っていなかったと思う。

だが、いつも笑顔だった。

残してくれた私たちを育て上げるため、必死だったのかもしれない。

いや、私たちとの時間が幸せだった、私たちと一緒にいることが楽しかった。

幸せが勝っていた、そう信じたい。

「よるって言って!よるって言って〜!」

私はムキになりながら叫んだ。

「るう、みう、せーの!」

「「よーい、、ちゃん!!」」

ママの促しにより2人が叫んだのは、よる、ではなく、よい、だった。

「よい?私、よいじゃないよ?よるだよ?」

私はむくれながらそう言った。

「よる!この子たち賢いかもしれない!夜ってね、別名『宵』って言うのよ。この子たち分かってて宵って呼んだのよ!」

何故か興奮気味のママ。

「そんな訳ないじゃん!」

だが、言葉の裏側、あだ名が増えたことに喜びを感じていた。

それを見透かしてか、ママは嬉しそうに微笑んでいた。


◇◇◇


「「よいちゃん!!どうしたの??」」

と妹たちが雨夜を呼ぶ声が聞こえた。

「あ、ごめん。思い出を思い出してた。」

ハッとして雨夜は現実に引き戻された。

「「どんな?」」

「初めて君たちがよーいちゃんって、私のことを呼んだ時のこと。可愛かったな、赤ちゃんの頃。今も可愛いけど。」

「赤ちゃんじゃない!」「もうエンジだもん!」

とむくれて2人が言った。

前言撤回、赤ちゃんの時よりちょっと可愛げが無くなった。

でもその姿も微笑ましく見え、口元がにやける。


 母親がいなくなって、最初どうしようかと戸惑った。

ずっと、、『ママ、ママ、何処〜?』と泣き叫んでいた。

でも、『ママはパパと一緒にお空の星になって2人を見守っているよ。見えないだけで、そばにいるよ。』

と言うと子供なりに分かってくれたようで、

『ママ、パパ、見ててね!おーい!』

なんて、空に腕を振るまでになった。

大丈夫なつもりが、雨夜の方が涙ぐんでしまうから不思議だ。

──どうして、、?どうして自殺なんかしたの?どうして私たちを置いてったの?先に、、いってしまったの?

いつも夜になると雨夜は考えてしまう。

──もし生きていたら、、。

ハッとして雨夜は首を振る。

──いや、お母さんが死んだのは、お母さんのせいじゃない。全てあの男の、、。憎きあの男のせいなんだ。お母さんの人生をめちゃくちゃにした、あの、、、。だから、、復讐するため、生きる。

雨夜は顔を上げた。

──自分の人生をめちゃくちゃにしてでも、復讐をやり遂げる。そして、あの男の人生もめちゃくちゃにしてやる。

 雨夜は2人と一緒に夜の空を見上げた。

──お母さん、お父さん、私は、絶対に2人を守り、復讐を成し遂げます。どうか、見守ってください。

瞬く星に雨夜は誓った。

その星たちが悲しげに光っているように見えた気がした。