「真之、行ってくるね」

 この近所に子守してくれる雪女のおばあさんが暮らしているので彼女に彼を預けると、仕込みなどをこなしてから屋台を中央の広場に引いて営業を始める。
 昼前という時間ではあるが早速お客さんが訪れて注文してくれる。これまでお店に閑古鳥が鳴いた事はほとんどないのがありがたい限り。
 すると、桜子さん。と中年くらいの女性のお客さんが声をかけてきた。

「そういえば、百々(どど)公爵家のご当主様が人探しをなさってみるみたいよ」
「へえ……そうなのですか」
「うちの家の近くにある掲示板にも、その事が載っている新聞紙が張り出されててね」

 百々公爵家は三大公爵家のひとつで、ご当主様は裕一郎(ゆういちろう)様とおっしゃるらしい。でも私は彼の姿を見た事なんか全然ないからどんなあやかしなのかは想像がつかないなあ。正確に言うと三大公爵家のひとつだから、九尾の妖狐である事は想像がつくけどそれ以外はなんともわからない。

「それで、人探しって……探してらっしゃるのはどのような方なんですか?」
「それが桜子さんとよく似ているのよ。うどん屋の屋台をやってる若い女性だって」

 確かに私と条件はあてはまっているけど……。でもうどん屋の屋台やっている若い女性だなんて正直珍しくもなんともない。
 実際同業仲間というか、同じようにうどん屋の屋台を切り盛りしている同年代位の女性と接点を持った事は幾らでもある。