ベッドの横にある机の上で茶色い紙を広げると、黒い丸薬が姿を現した。製造方法は雪女にのみ伝えられる門外不出のものだそうだが、使っている材料はほぼ全て果実なので心配しなくて良いと彼女の談。
 それを聞いた裕一郎様は、ほっと息を吐いたのだった。

「今すぐにでもお飲みなされ。すぐに効きますぞ」
「ありがとうございます」

 そういえば目を覚ましてから何も口にしていないので、お腹が空いた気がする。でもごはんを取れるくらいの食欲はまだないから、丸薬とぶどうはちょうど良い気がした。
 丸薬はちょっとだけ苦い。けどぶどうの味わいがすぐに相殺してくれる。

「桜子さん、どう?」
「裕一郎様……ぶどう、甘くてさっぱりしていて美味しいですよ」
「そうか。桜子さんに差し入れして頂き、ありがとうございます」

 雪女のおばあさんがいえいえ。と笑って返事をする。彼女の笑みを見るとやっぱり心が落ち着く。

「真之君にはぶどうと丸薬はつぶして与えてくれな。喉につまらせたら大変だから」
「わかりました。桜子さん、真之君にも与えて来るよ」
「お願いします、裕一郎様」