「こちらは百々公爵家の別荘でございます」

 聞けば、裕一郎様が当主になった際に建築された別荘みたい。もし私と真之が流行病だったら……。というのを考慮してこちらへと私達は移送されたそう。

「あとこちらは診療所が数多く、医者達も多いと聞いております」
「へえ……なるほど……」

 確かに医者が多いのは助かるよね。対応しやすいって事だから。

「ここだ」

 裕一郎様の声が聞こえてきたのと同時に彼が部屋に戻って来た。裕一郎様の後ろには懐かしい顔が見え隠れしている。

「桜子さん!」

 そう、真之を子守りしてくれていた雪女のおばあさん。茶色い着物に黒い羽織を着た彼女の手には、大きな赤い茶巾袋が大事そうに握られている。

「お久しぶりです……!」
「いいのいいの、横になったままで構わんよ! それよりも身体は大丈夫なのかい?!」
「まだですね……身体が重くて……」
「実は薬を持って来たんだ。あとぶどうもね」

 彼女が取り出したのは綺麗に実がなっているぶどうが1房。そして折りたたまれた茶色い紙。この紙の中に薬が入っているようだ。

「その薬は一体……?」
「百々家ご当主様。こちらは熱さましの丸薬で、代々雪女に伝わってきた秘伝の代物でございます」