真千子はなおも裕一郎様の腕にしがみつく。

「お願いします! 私を妾にしてください!」

 あれだけ私を妾腹だと罵っていた癖に、今度は自ら妾になりたいだなんて虫が良すぎる。

「真千子さん。もう諦めてください」
「っ、お姉様……!」
「あなたに妾だなんて耐えられる訳がない。あれだけ私を馬鹿にしていたんだから」

 裕一郎様がさっと真千子の腕を振りほどく。そして私を抱き締めて真千子に見せつけるように口づけを交わした。
 真千子はがくりと膝から崩れ落ちる。

「……結納金は送るが、援助はしない」

 私達は足早に屋敷を後にする。もう屋敷に戻る事はないと信じて。
 百々公爵家の屋敷に到着した後は、真之と裕一郎様と昼ご飯を食べる。

「結婚式には一之瀬家は呼ばない。それでいいね?」
「はい。構いません」
「しかしあそこまで俺に媚びへつらいつつ援助を求めるなんてね」

 苦笑している裕一郎様だけど、目は笑っていない。

「あの実家に関わってもロクな目は無いです」
「そうだな……だが、今後事業で関わらない事も無いはずだ」
「細心の注意を払わねば、ですね……」

 真之はいつも通りにご飯を食べている。食欲があるのは良い事だ。
 
「さあ、結婚式の事を考えよう。桜子さん」
「そうですね」