しばらくすると父親とその正妻が慌ててこちらへとやって来る。

「ど、百々家のご当主様! このたびは我が家にお越しくださりありがとうございます! ささ、どうぞおあがりくださいませ!」

 へこへこと頭を下げて座礼しながら、こちらの顔を伺っている2人。明らかに媚びへつらっているのが丸わかりだ。
 ……私に対して敵対心を見せるよりかは、ましかもしれないけど。

「お邪魔するよ。桜子さん、一緒に行こう」
「はい……」

 ふんわりと真之の身体が浮き、裕一郎様の尻尾がにゅっと彼の身体を抱きしめる。そして空いた手で私の手を固く握ってくれた。

「歓迎感謝しよう」

 居間に通された裕一郎様へ、父親と正妻はなおも頭を下げ続けている。まるでそういう玩具みたいで、滑稽にも見えてしまう自分がいた。今まで私に対してはこんな事しなかったのに。
 裕一郎様は立ったまま2人を見下ろしていた。

「さっさと本題に入ろう。俺はあなたの娘である桜子さんと結婚する」
「は……はい……さようでございますか」
「異論はあるか? あろうがなかろうが結婚する事に変わりはないけどね」