すると彼は手紙の宛先が書かれている部分を無言で見せてくれた。そこには私の実父の名前が書かれている。
 父親が裕一郎様に手紙……? 胸の内からは嫌な予感が湧いて出て止まらない。

「読んでみるか?」
「……はい」

 封を開けて手紙に目を通す。

『娘がそちらにお世話になっていると聞いた。心配なので屋敷に戻って来るように催促をお願いしたい。はやく娘に会いたい』
 
 要約するとこのような感じの内容。どうやら父親は私が百々公爵家の迷惑になっている存在と思っているらしい。一之瀬家の屋敷から私を追放しておいてこれとは、思わずため息が出てしまう。

「ふぅん。じゃあ直に会って話をする必要がありそうだな」

 早くも裕一郎様の顔は臨戦態勢に突入しようとしている。いやいや、私が言うのもなんだけど怖いから落ち着いて欲しい……。

「あ、あの……直に会ってお話とは……」
「言葉通りの意味だよ。真之君も連れて行こう」

 絶対話すだけでは終わらないんじゃないかという疑いが晴れずにいる。
 父親らと会う事は不安があるけど、今日の裕一郎さまが見せた令嬢達にこの間の真千子への対処を思い出すと、死人が出てもおかしくないような気がしてしまった。

「桜子さん。一之瀬家へ結婚の挨拶へ行こうか。一緒に」