あまりに大きな声だったので、私は思わず両手で耳を塞いでしまった。ひとりの令嬢がちょっと、傷をつけては公爵様にバレてしまうじゃない! と告げる。

「ああ、もう少しの所で食ってしまいそうだったわ」

 私はあと少しで食べられていたのか……。

「とにかく。私達は最低でも伯爵家、最高は侯爵家の令嬢達よ」
「男爵家の人間令嬢ごときが百々公爵家のご当主様と釣り合うとでもお思い?」
「しかもあなた、妾腹だそうね。真千子さんの異母姉だって。こんなの、真千子さんがかわいそうよ!」

 私は、そもそもこうなるなんて思ってもみなかった。このまま真之と暮らしながらうどん屋の屋台を営んで生活していくと思っていたの。
 そりゃあ、裕一郎様と会えたのは嬉しいけど……。

「……お願い。あなた、縁談を辞退してほしいの。私達、家の行く末がかかっているのよ!」
「男爵家ならそれ相応の縁談が来るわ。だから百々公爵家のご当主様は私に譲って」
「ちょっと! 抜け駆けはしない約束でしょ! とにかく、あの方は諦めて頂戴!」