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「では、皆様これよりしばしご歓談の程を……」

 挨拶が済んだので私は裕一郎様の手を握ったまま、舞台からはけるべく足を踏み出した。さっきの挨拶の言葉では思いっきり噛んでしまったのでもう頭の中がどうにかなってしまいそう。

「桜子さん……個室があるけど、そっちにする?」

 個室があるならそっちの方がいい。申し訳ないけど、今の私にとってはこんな大勢の人やあやかし達が目に毒だ。
 その時、後ろからお待ちください。と声がかかる。

「あ……」

 さっき、冷ややかな目線を向けていた貴族の令嬢達だ。5人いる中で3人は狼のような灰色の耳を頭頂部付近から生やしたあやかし、残る2人は特に外見上人間との違いは見られないから……あやかしか人間のどっちかだろう。

「百々公爵家ご当主様。桜子様とちょっと話がしたいのですが……よろしいですか?」

 彼女達はにこにこと笑ってはいるけど、これはどう考えても愛想笑いにしか見えない。
 
「いや、今から俺達は休憩に入る。申し訳ないがお断りさせていただく」

 裕一郎様の声は、つららのように冷たい。しかも殺気が籠っていた。
 だけど令嬢達に引き下がるつもりはないらしい。

「女性だけでお話がしたいのですわ! ご当主様、少しだけなら構いませんわよね?」