屋台ではかけうどんとおあげを乗せたきつねうどん。それと煮込んだ野菜と鶏肉がかかった野菜うどんの3種を提供しているのだけれどそれが思ったよりも売れている。下町の質素な長屋での暮らしとはいえ、売上金で何とか家賃を払えるようになっているのはとっても助かっていると言えるかも。

「桜子さんのうどんはとっても美味しいよ」
「また来るね!」

 お客さんから笑顔を向けられるのはとっても嬉しい。それは今の私の原動力にもなっていると思う。
 冬の寒い風が吹きすさんでいたある日の夜。屋台にふらりと現れたのは藤色の着流しを着た若い男性だった。背が高くて金髪に赤い瞳を持ち、どこか神秘的な雰囲気を纏っていた彼に、私はうっかり一目ぼれしてしまったのだ。

「すみません。きつねうどんの中を1杯ください」
「はいよ――」

 中は1.5玉分の量。ちなみに小が1玉で大が2玉。男性は2玉分ある大でもぺろっと平らげてしまうのだからすごい。

「お待たせしました。きつねうどんの中です」
「ありがとうございます。……ん、美味しい! おあげが甘くてだしとよく合ってますね」
「良かったです。よく炊いてますから甘いんですよ」

 若い男性はうどんを食べた後、ばさっと札束を着流しの袂から出してお金を支払ってくれた。いや、支払うと言うよりお金を出したと言った方が状況的に正しいかもしれない。