想定よりもか細い赤子の泣き声を聞いて、ようやく途切れかかっていた意識がはっきりとこちらへ戻って来たような気がした。

「まあ、なんと。この男の子九尾じゃないか!」
「え……」

 九尾。身をよじって確かめてみると産婆の言った通り、赤子の腰からは金色に光る九つの狐の尻尾が見え隠れしていた。
 あの人と同じ……。私が産んだ赤子は人間ではなく、あの人と同じ九尾の妖狐のあやかしだったのだ。

「おめでたいけど、この先どうすんだい?」
「は、はあ……」
「九尾の妖狐だなんて三大公爵家以外にありえないのに、こんな所にいると知られたら大変だよ」

 中年くらいの産婆の言葉に対し私・一之瀬桜子(いちのせ さくらこ)はそ、そうですよね……。とあいまいな返事しかできないでいる。
 産婆があれこれ赤子へ処理をしてくれている間、私はなぜこうなったのかを振り返っていた。

◇ ◇ ◇
 
 私はこの下町でうどんの屋台を切り盛りしている。私の実家は男爵家なのだが、私は妾腹という事もあって、幼少期から家族からの扱いは著しく悪かった。
 特に正妻の子で異母妹にあたる真千子(まちこ)からは酷くいじめられたのだけど、殴られたり蹴られたりは勿論、亡くなった実母の形見を壊されたりした事もあった。妹である彼女の事は嫌いなのに、ちゃんとさん付けで呼ばないとひどく怒るのも辛くて嫌。
 成人した私は男爵家から追い出されたが、下町で出会った人々との縁もあってうどん屋の屋台を開き、うどんを売るようになった。