「まず、うちの家の事は何にも心配しなくていい。次に……君はうどん屋については畳みたくないんだね?」
「はい。お客さんの笑顔が原動力になっているんです」
「そっか。うん。君の意見を聞けて良かった」

 意見を聞けて良かったというのは? その言葉には何の意図があるのだろうか……?

「単刀直入に言うと、うどん屋の屋台を出店してほしい場所があるんだ」
「出店してほしい場所、ですか?」
「ああ、百々家の屋敷のすぐ近くにある製糸工場なんだけど」

 製糸工場。そこは主に女性の人間や下級のあやかしが女工として働いている場所になる。実は屋台に女工さんが何度か訪れた事があったはず。それなら女工さん相手にお昼ご飯を振舞うって事になるのかな?

「女工さん達から聞いたんだ。桜子さんの作るうどんはとっても美味しいって」
「そこまで評判が及んでいたのですか」
「うん。製糸工場を視察しに来た時に彼女達が言ってくれたんだよ。それは絶対桜子さんの屋台だと確信した」

 女工さんからも良い評判を貰えたのはとても嬉しい。
 それにしても裕一郎様からの話を聞けば耳が敏感になって、彼の綺麗な瞳には思わず胸がときめく。

「君と真之君は必ず俺が守る。だから君は安心してやりたい事をやれば良いよ」
「よ、よろしいのですか?」
「少なくとも君に反対する者は、百々公爵家にはまずいない事を理解してほしい」
「ゆ、裕一郎様……。ありがとうございます……!」