営業後、真之と共に指定された旅館へと歩く。既に日が落ちて夜になったこの街は多くの人やあやかしが行き交っていて賑やかだ。
 おでん屋の屋台なんかも川沿いに並んでいて、夜なのに真昼よりもうるさくて明るい。

「えっと、ここを左に曲がったらあるんだよね」

 背中におぶっている真之が私の髪を掴んだ。髪の毛を引っ張られる痛みと共に何か直感的なものを感じたので、地図を見返してみると、どうやら間違っていたようだ。

「ここじゃない! もう一個向こうの道を曲がるんだった!」

 真之に助けられた形で何とか旅館へと到着する。すんごい立派な旅館だ……。守衛さんらしき鬼のようなあやかしへ裕一郎様がここに来いと言ってましたので……。と話しかけてみると、私の事はちゃんと話が通っていたらしく早速中へと案内された。

「失礼します……」

 下駄箱に草履を入れて用意された赤い革製の履物を履く。どうやら旅館内は土足禁止らしい。確かにこの赤紫色の絨毯は立派な物だから草履だと汚れちゃうものね。