「裕一郎、様……」

 泣き止んだ真之が裕一郎様へと小さな手を伸ばした。もしかしたら本能で彼が父親だとわかっているのかもしれない?

「ああ、ようやく会えたな。俺が君のお父さんだよぉ」

 両手の指を真之の目の前でピロピロと動かして見せたら、真之はぽかんと彼の指を見ているだけだった。そんな真之の姿もまた愛らしい。
 
「ねえ、桜子さん。今は営業中だよね?」
「あっはい、そうですね。妹が来たので急遽閉めてこちらに飛んできたので……」

 そんな真千子は今もなお固まったままだ。まばたきひとつしていないけど、彼女に構う気持ちにはなれない。

「じゃあ、お店が終わったらここに来てくれないかな? 勿論真之君も連れてきてほしい。ゆっくり話そう」

 裕一郎様から手渡された地図に記されているのは、この近くにある旅館。どうやら百々公爵家が所有権を持っているらしい。

「わかりました。お待たせしてしまって申し訳ありませんが……」

 断る理由だなんてなかった。ようやく再会できたのだからまずはその余韻に浸かりたい。
 ……でも、それだけ。これからも彼のお世話になる事は気が引ける。