「……あら? その九尾のあやかし……売ったらいくらになるのかしら?」
「なっ……!」

 真千子は口角を釣り上げながら、雪女のおばあさんの手に抱かれている真之を品定めするように見つめ始めた。
 皇妖国には身売りの仕組みがひっそりとある。人間もあやかしも女は遊郭か見世物小屋、男は跡継ぎのいない貴族や女同様見世物小屋などに売られていくとか。
 そして人間よりもあやかしの方が値段は高くつく。が、真之を売ろうだなんてあり得ない。私の大事な家族なのだから。
 
「やめてください……!」
「あら、この子もしかして……お姉様の子?」

 いきなり真千子の顔が般若の面みたいに豹変した。彼女に両腕をつかまれて長屋の壁に身体を突きつけられる。
 身体中が痛い。離して……。

「ねえ、お姉様。……まさかお姉様ごときが三大公爵家の誰かとの子を産んだっていうの?」
「かっ……」

 首を絞められて苦しい……。真之の悲鳴が次第に薄らいでいく。

「許せない……! お姉様如きが三大公爵家の誰かから愛されるだなんて……!」
「ま、まち、こ、さ……」

 視界がぼやけて息が切れてきた時、真千子の後ろに黒い洋装に金色の九尾を揺らしている若い男が現れた。
 ああ、間違いない。あの日、屋台に現れたあのあやかしだ……!