二年後、満開の桜並木を歩く新郎新婦は多くの街民に祝福された。
 
 新郎は竜神。
 美しい銀色の長髪に、川のような青い眼。
 それなのに着物に違和感がない姿はさすがこの地をずっと守ってくれた神。
 大洪水の時に街を救ってくださった竜ノ川の主の仮の姿だ。
 
 新婦は代々、祠を守ってきた地主一族の娘。
 幼い頃、祖母と祠の掃除をしていたことを年配者たちは知っている。
 着物がよく似合う、凛とした姿勢の美しい娘だ。

「竜神様、街を救ってくださってありがとうございます」
「水緒の側にいたかっただけだ」
 白無垢も良かったが、色打ち掛けもよく似合うと微笑む青い眼は優しい。

「……でも、我が家が神社になってしまったのはなぜなのでしょう?」
 水緒は川の横に立つ我が家を見ながら首を傾げた。

 普通の古い日本家屋だったはずなのに、家の前には鳥居ができている。
 鳥居を寄贈したのは、隣街の洋装の女性の父。
 娘が詐欺師と結婚しないですんだのは、竜神様のおかげだと寄贈されたそうだ。
 
 たった二年しか経っていないのに、家を守るかのように木が生い茂り、空気が澄む不思議な空間に。

「一部改装すると伝えたはずだが?」
「あれは改装、というのでしょうか?」
 たしかに雰囲気は変わっていない気もするが、日本家屋が神社に変わるなど誰が予測できただろうか。

 父は神主に。
 水緒の従兄弟が神主を継ぐことが決まっている。

 竜穴だと言われた祠があった場所には新しい祠と石碑が置かれ、この街を救った竜神と水緒の物語が刻まれた。
 
 二人は祝言のあと、人々の前に姿を見せることはなかった。
 だが、輝く川と美しい桜並木を毎年楽しむたびに、街の人々は竜神様と水緒が仲良く過ごしているおかげだと、神社に感謝を述べに訪れた。
 神社はいつの間にか「水緒神社」と呼ばれるように。
 
「……自分の名前の神社だなんて、なんだか恥ずかしい」
「水緒神社は竜ノ川のほとりから移してはならぬと神主に告げておこう」
 こうやって先祖代々伝わっていくのかと水緒はクスクス笑った。

「水緒、永遠に我とともに」
「はい。竜神様」
 いつまでも二人で――。

 そして今年も見事な桜が咲き乱れる。
 川と神社と桜と石碑。境内にはなぜか桃の木まで。
 遠くには山がそびえたち、空は綺麗な青空が広がる。
 この先もずっと二人の仲が良い限り――。

    END