「だが、水緒のおかげで再び会えた」
 もう離さないと竜神は水緒に微笑む。

「婚礼衣装はいつ出来上がる? 最高の着物を準備すると言っていただろう?」
「最短でも、あと一年半はかかると」
「では二年ほどお前の屋敷に住もう。祠も無くなってしまった。桜が咲く季節に、嫁に行かせたかったのであろう?」
 異論はないなと言われた父は信じられないと目を見開いた。

「竜神様を我が家にお迎えできるなんて。二年と言わず、この先もずっと……!」
「お父様、それはさすがに……」
 古い我が家ではあまりにも失礼ではと止めようとした水緒の手を竜神はギュッと掴んだ。

「その方が寂しくないか?」
「え?」
「水緒が望むのなら、それでかまわないぞ」
 ただし一部改装すると竜神に言われた父は「お好きなだけ改装してください」と快諾。

「祝言は二年後だが、水緒は願いを叶えた瞬間から俺のモノだ」
「えぇっ?」
「片時も離れるな」
「水緒をよろしくお願いします」
「ちょ、ちょっとお父様」
 未婚の娘なのに、同じ部屋で過ごすことまで同意してしまった父に水緒は呆気にとられた。
 
 ……妻だと言っていた。
 私が竜神様の妻!
 今更ながらその重大さに心臓がバクバクする。

「水緒、愛している」
 もう離さないと言われた水緒は真っ赤な顔になりながら甘い口づけを受け取った――。

 下流で発見された宗一郎は詐欺師として逮捕された。

 水緒と隣町の洋装の女性だけでなく、もっと上流の街の女性も、下流の街の女性とも結婚の約束をしていたことが判明。

 街の再開発計画はもちろん白紙。
 川の蛇行を変える工事も中止、よみがえった桜並木は植え替えの必要もなく、もちろん水緒の家を宿泊所に建て替えるという計画もすべて中止となった。