「宗一郎、この地味な女、知り合い?」
「あ、あぁ。このあたりの地主さんの娘だよ」
「ふぅん」
 そうなんだと口の端を上げた女性から水緒は目を逸らした。
 地主の娘。許嫁ではなくて。
 宗一郎の説明にガッカリした水緒はキュッと口を横に閉じる。

 あれ? 着物の男性がいない?
 いつの間にいなくなったの?
 今までここにいたのに。

「……汚い祠。これのせいで工事が出来なくて、私との結婚が伸びているの?」
 こんなの壊せばいいと言う女性に水緒は目を見開いた。

「……結婚?」
 目が合った宗一郎は気まずそうに顔を背ける。

『あの男はダメだ』
 急に銀髪の男性の言葉を思い出した水緒は、なぜそう言われたのかようやく気づいた。
 
 ……騙されていたってこと?
 私もお父様も。
 父が書いた覚えがない念書。
 どうやって書かせたかはわからないが、この男が欲しかったのはここの土地だけ。

 この人は私と結婚するつもりなんて初めからなかったんだ。

「宗一郎様、どういうことか説明してもらえますか?」
「あとで屋敷に行くよ」
 その笑顔にはもう騙されない。
 水緒はグッと唇を噛んだ。

「私と結婚の約束をしておきながら、その女性とも約束しているんですか?」
「なんですって?」
 隣の洋装の女性も驚き、目を見開く。

「どういうことなの、宗一郎!」
「説明してください、宗一郎様」
 先ほどまでは敵同士のような関係だった女性二人が急に自分に歯向かう状況に、宗一郎はグッと傘を握る手に力を入れた。

「そもそも、お前が祠を壊させなかったのがいけないんだろ!」
 意味のわからない言いがかりに水緒は唖然とした。