帝都に出かける準備をする。
 前にお父様から貰った水色の着物を着る。
「桜耶、準備は出来たか?」
 部屋の外で待っている燈成様が問う。
「え、ええ。今行くわね」
 私は巾着を持ち、部屋を出る。
 巾着の中には銭とお守りが入っている。
 お守りはどんな時でも持ち歩くようにしている。
 何かあった時に神の力を借りろとお父様に言われてきたからだ。
「お、お待たせ……っ」
 襖を開けると私を待っていた燈成様の姿が見えた。
 なんと美しいのだろう。
 それ以外思うことがない。
 いつも着ているような紺の着物なはずなのに、いつもより格好良く見えるのは私の目がおかしくなってしまったのだろうか。
「さあ、行こうか」
「ええ……」
 私は手をぎゅっと握られてしまい、燈成様から離れることができない状況だ。
 このまま帝都に行くのか。
 燈成様の家にはあまり客が来たりしないので二人暮らしをしていようが、燈成様が私の手を握ろうが誰にも見られないからいいと想っていたが、帝都となれば別の話だ。
 帝都は国民が皆行ってみたいと言うような場所。
 学生でも大人でも遊びに行くところ。
「……燈成様。帝都は人がたくさんいるから手をつなぐのは……」
 私が燈成様に訴えると燈成様不服そうな顔をしていた。
「何が不満なのか?俺と一緒にいることか?」
 なぜそうなるのかわからないが、私は首を横に振って否定した。
「違うわ。その、人が大勢いるのに手をつなぐことが恥ずかしくて……」
 私が言うと燈成様は深くため息をついた。
「桜耶、鷹司家の次期当主の妻となれば大勢の人間の前に立つことも多くなる。それは理解できるか?」
 わたしはこくんと頷いた。
「金目当てで桜耶を狙ってくる奴らも出てくるだろう。何も知識がない桜耶を狙うのは当然のことだ。そんな時に俺にきちんと助けを求められるかが運命を左右するだろう」
 大げさな話だと少し思ってしまったが燈成様の口調や瞳を見ていればわかる。
 この人の話は実際にあり得ることなのだと。
「帝都は政に関わる人も来ていることもある。そんな時に俺が桜耶と手をつないでいたら結婚相手だとわかるだろう。結婚まではいかなくてもそれなりの関係だとはわかるはずだ。……簡単に言えば変な虫を追い払うということだ」
 私の手をぎゅっと強く握った燈成様。
 私も恥ずかしさを堪えながら燈成様の手を握り返す。
 燈成様は私の行動に驚いたように目を見張ったが、嬉しそうに笑ってくれた。
「わぁ……!」
 ついに帝都に着いた。
 想像通り華やかな人たちばかり。
 あっちを見てもこっちを見ても綺麗なもので囲まれている。
 きょろきょろしていると燈成様はおもしろそうに笑った。
「ははっ。いつまで左右を確認しているつもりだ」
 燈成様を見ると今まで見たことがないような笑顔を零していた。
 いつもの「最強の軍人」という顔をしている燈成様ではない。
 一人の青年、鷹司燈成の笑顔を見れた瞬間だった。