鳥のさえずりが聞こえ、ふっと目が覚める。
 ふかふかの布団が私を包んでいる。
 そうだ。私は燈成様の家で住むことになったのだ。
 眠気と闘いながら布団をたたみ、押入れにしまう。
「おはよう」
 和服姿の燈成様。
 どんな格好であろうとどんな状況であろうと格好いいのは何でだろうか。
 そして、笑顔で話しかけてくれる燈成様に心臓がバクバクと鳴り響いている私はこれからやっていけるのだろうか。
「お、おはよう……」
 二人で朝食を食べている時に燈成様はたくさん話しかけてくれる。
「あの。そういえば私、巫女として神社で色々としなければいけないのだけど……神社に行ってもいいかしら?」
「もちろんだ。鷹司家から車を出すこともできるがどうする?」
 そう問われ、私は首を横に振った。
「大丈夫よ、歩きで行けるわ」
「……本当に大丈夫か?山の上だぞ?」
「お気持ちはありがたいけれど……行くまでの山道も好きなのよ」
 山の上に神社も家もあったので町に行くまでは大変だけれどもそれまでの自然を見るのも好きだ。
 春は桜が咲き誇り、夏は緑に囲まれて、秋は紅葉が綺麗で、冬は木の葉に雪が積もる。
 四季が織りなす景色はいつ見ても飽きないものだ。
「わかった。怪我には気をつけるんだぞ」
「……私のこと何歳だと思っているの?」
 まるで小さな子供に向かって釘を刺しているようだった。
「ちゃんと十八だとわかっているぞ?」
「そういう問題じゃないわっ」
 私は家を出て神社に向かう。
ㅤ実家も山の上にあるので、このように山道を歩くことが久しぶりな気がする。
「やっと着いた……」ㅤ
ㅤ長く感じた山道を超え、とうとう神社に辿り着いた。
「あ、桜耶」ㅤ
ㅤ甘い声が聞こえ、小走りで家の方へ向かう。
「……大和(やまと)さん!」
武原(たけはら)大和さん。
ㅤ彼はよく神社に来てくれている私の幼馴染。
「大和さん、その格好……」
「ん?……ああ、これから仕事なんだ」
ㅤ大和さんは私の二つ上の二十歳で、優秀な軍人。
「そうなんですね……」
「そういえば桜耶、結婚するんだって?」
ㅤ突然そう言われ私の顔は赤く染る。
ㅤ季節ではない紅葉(もみじ)のように赤いのだろう。
「は、はい……」
「まさかの相手が隊長とはねぇ」
ㅤ大和さんの言葉に一気に熱がなくなった気がする。
「え、隊長……?」
「ああ、そうだよ?」
ㅤ大和さんは不思議そうに私を見る。
「もしかして、相手の職業知らないとか?」
「い、いえ!そういうことではありませんっ。ちゃんと燈成様が軍人だということも知っています」
 私がそういうと大和さんは頷いた。
「そうそう。鷹司燈成は最強の軍人。そして、俺たちを引っ張ってくれる隊長なんだよ」
 私は目を見開く。
「え、えぇ⁉燈成様ってそんなにすごい方だったの……?」
「最強の軍人って言われるくらいなんだから」
 確かにと私は納得する。
 大和さんの話を聞いていると不安になってくる。
 最強の軍人である燈成様の結婚相手として私は相応しくないのではないかと。
 けれど、燈成様を好きになってしまったのも事実。
 様々な気持ちが交差する中、桜の花びらはひらひらと宙を舞う。