不遜な態度とは裏腹に、まるで神様のようなことを言う我妻くんが面白くて、私は思わず吹き出して笑った。
そんな私を胡乱な目で見た彼に向かって、勢いよく右手を差し出す。

「それじゃあ私と友達になってよ」

「はぁ?」

「私、我妻くんと仲よくなりたかったんだ。そうだ、あんたじゃなくて名前で呼んでほしいな。私の名前知ってる?」

「……瀬尾」

「名字じゃなくて名前の方だよ! もしかして覚えてないの? もう半年以上も同じクラスにいるのに!」

「わ、悪かったな」

私の勢いに気圧されたのか、我妻くんが怯んだように唇を引きむすぶ。
しかし思わず責めるように言ってしまったけれど、その実、私は嬉しく思っていた。
だって下の名前までは覚えられていなかったものの、あの我妻くんが、きちんと私の存在を認識してくれていたと分かったのだから。

我妻くんの世界に、私はすでに存在していた。
そんな些細なことがとても嬉しくて、私は無性に愉快な気持ちになった。

「私の名前は瀬尾結花。だから結花って呼んでよ。その方が仲良しっぽいでしょ?」

いっこうに私の手を取ってくれない我妻くんの右手を掴んで、ぶんぶんと縦に揺さぶる。

ずっと近づきたかったのだ。
他人を寄せつけたりしない、美しく孤高な一匹狼に。
まさかその願いが、こんなかたちで叶うとは思わなかったけれど。

しばらく呆気に取られ、私にされるがままになっていた我妻くんは、やがて我に返ると、すべてを諦めたように大きなため息を吐いた。

「気が向いたら呼ぶ」

「うん。私も至くんって呼んでいい?」

「好きにしろ。ってか、いい加減放せ!」

好き勝手に触れていた手を、うざったそうに振り払われる。
さすがに少し馴れ馴れしかっただろうか。
しかしおそるおそる見上げた先で、我妻くんは耳まで真っ赤に染めていた。
呆れたように顰めた顔も、やはりいつもと同じくらい綺麗で、私はいつまでも見つめていたいと思った。

凍てついた冬の朝。
こうして私は、夢魔のクラスメイトと友達になった。