我妻くん曰く、彼の遠い祖先が本物の夢魔で、彼自身は人間との混血らしい。
そのため幼いころは普通の人間として生活をしていたものの、思春期になったくらいから夢魔としての性があらわになってきたのだそうだ。
普段は精気ではなく人間と同じものを食べて生きているけれど、夢魔が人間の食糧で栄養を摂るのはとても効率が悪く、四六時中何かを食べていなければ先ほどのような猛烈な飢餓感に襲われるのだという。
我妻くんがいつもたくさんごはんを食べているのに、まさかそんな理由があっただなんて。
「何度も言うけど、本当に悪かったよ。飢えすぎて無意識にあんたに手を出した」
「そっかぁ。災難だったね」
「のん気な返答だな。災難だったのはあんたの方だろ」
我妻くんが呆れたように眉根を寄せる。
たしかにあれは驚いたし苦しかったけれど、そこまで嫌悪感があったわけでもないし、私としては繰り返し謝ってもらうことでもないというのが本音だった。
「それはそうと、どうして普段からその精気っていうやつを喰べないの? いつも精気を摂取していれば、そんなふうにお腹が空いて苦しむこともないんでしょう?」
そもそも日常的に精気を得ていれば、彼の抱える問題はすべて解決できるはずなのだ。
それを頑なにしないのは、いったいなぜなのだろう。
話を聞いた上で当然のごとく感じた疑問を、率直に我妻くんへぶつける。
すると私の疑問を受け止めた彼は、鋭い眼光で私を射すくめた。
「もしもあんたが夢魔だったとしたらどうだ」
「えっ……?」
「腹が減ったら、好きでもない人間の体液すら啜りたくなるんだぞ? そんなの気持ち悪いだろ。俺はそんな浅ましい生き方はしたくない。昔のように、普通の人間として生きていたいんだよ」
それを聞いて、私はやっと彼の境遇の難しさに気づくことができていた。
毎日毎日お腹が減るたびに他人の体液を啜りたくなるなんて、人間としてのプライドがあるならばとても苦痛なことに違いない。
それにこれからも穏やかに生きていきたいのであれば、人ならざる者であるということを周囲に気づかれるわけにもいかないはずだ。
おそらく彼は夢魔として目覚めてから、ずっと苦しんできたのだろう。
そんなこと、少し考えれば分かるはずなのに、私はなんて浅はかな質問をしてしまったのか。
あまりにも軽率だった振る舞いを反省していると、我妻くんはまたもや自分を嘲るように笑った。
「まぁ、それで他人を襲うようじゃ世話ないけどな。あんたに迷惑をかけて、改めてこの生き方には無理があるんだって分かったよ」
我妻くんの瞳が悔しさを隠しきれないほどに揺れる。
心の底から夢魔としての本性を嫌悪しているのに、夢魔として生きていかなければならない。
他人事ながら、本当に難しい問題だ。
それなら偶然彼の秘密を知り得た私に、何かできることはないだろうか。
そう考えて、思いつくのはひとつだけだった。
「……ねぇ、我妻くん。私が我妻くんに精気を分けてあげようか」
「はぁ!?」
「もちろんこのことは誰にも言わないし、我妻くんが私でよければの話だけど」
小首を傾げながら、おそるおそる提案する。
これからも精気の摂取を拒否し続ければ、今日と同じことが再び起こってしまうかもしれない。
そのときがちょうど周囲にたくさんの人間がいるタイミングであったら、ちょっとした騒ぎでは済まないだろう。
ならば少し我慢をして、彼の正体を知った私から精気を摂取すれば、そんな最悪の事態だけは回避できるのではないかと考えたのだ。
そのため幼いころは普通の人間として生活をしていたものの、思春期になったくらいから夢魔としての性があらわになってきたのだそうだ。
普段は精気ではなく人間と同じものを食べて生きているけれど、夢魔が人間の食糧で栄養を摂るのはとても効率が悪く、四六時中何かを食べていなければ先ほどのような猛烈な飢餓感に襲われるのだという。
我妻くんがいつもたくさんごはんを食べているのに、まさかそんな理由があっただなんて。
「何度も言うけど、本当に悪かったよ。飢えすぎて無意識にあんたに手を出した」
「そっかぁ。災難だったね」
「のん気な返答だな。災難だったのはあんたの方だろ」
我妻くんが呆れたように眉根を寄せる。
たしかにあれは驚いたし苦しかったけれど、そこまで嫌悪感があったわけでもないし、私としては繰り返し謝ってもらうことでもないというのが本音だった。
「それはそうと、どうして普段からその精気っていうやつを喰べないの? いつも精気を摂取していれば、そんなふうにお腹が空いて苦しむこともないんでしょう?」
そもそも日常的に精気を得ていれば、彼の抱える問題はすべて解決できるはずなのだ。
それを頑なにしないのは、いったいなぜなのだろう。
話を聞いた上で当然のごとく感じた疑問を、率直に我妻くんへぶつける。
すると私の疑問を受け止めた彼は、鋭い眼光で私を射すくめた。
「もしもあんたが夢魔だったとしたらどうだ」
「えっ……?」
「腹が減ったら、好きでもない人間の体液すら啜りたくなるんだぞ? そんなの気持ち悪いだろ。俺はそんな浅ましい生き方はしたくない。昔のように、普通の人間として生きていたいんだよ」
それを聞いて、私はやっと彼の境遇の難しさに気づくことができていた。
毎日毎日お腹が減るたびに他人の体液を啜りたくなるなんて、人間としてのプライドがあるならばとても苦痛なことに違いない。
それにこれからも穏やかに生きていきたいのであれば、人ならざる者であるということを周囲に気づかれるわけにもいかないはずだ。
おそらく彼は夢魔として目覚めてから、ずっと苦しんできたのだろう。
そんなこと、少し考えれば分かるはずなのに、私はなんて浅はかな質問をしてしまったのか。
あまりにも軽率だった振る舞いを反省していると、我妻くんはまたもや自分を嘲るように笑った。
「まぁ、それで他人を襲うようじゃ世話ないけどな。あんたに迷惑をかけて、改めてこの生き方には無理があるんだって分かったよ」
我妻くんの瞳が悔しさを隠しきれないほどに揺れる。
心の底から夢魔としての本性を嫌悪しているのに、夢魔として生きていかなければならない。
他人事ながら、本当に難しい問題だ。
それなら偶然彼の秘密を知り得た私に、何かできることはないだろうか。
そう考えて、思いつくのはひとつだけだった。
「……ねぇ、我妻くん。私が我妻くんに精気を分けてあげようか」
「はぁ!?」
「もちろんこのことは誰にも言わないし、我妻くんが私でよければの話だけど」
小首を傾げながら、おそるおそる提案する。
これからも精気の摂取を拒否し続ければ、今日と同じことが再び起こってしまうかもしれない。
そのときがちょうど周囲にたくさんの人間がいるタイミングであったら、ちょっとした騒ぎでは済まないだろう。
ならば少し我慢をして、彼の正体を知った私から精気を摂取すれば、そんな最悪の事態だけは回避できるのではないかと考えたのだ。