「結花は俺が夢魔だと知っても、怯えるどころか友達になってほしいって言ってくれた。俺を信じると言って、精気を分け与えてくれた。上手く言えねーけど、俺は何度も結花に救われたんだよ」
思いもよらなかった至くんの言葉に、目を丸くしながら彼を見上げる。
そんな私の様子が面白かったのか、至くんは珍しく「ははっ」と声を出して笑った。
「このあいだ言ってたな。“俺と自分、どっちが悪魔なのか分からない”って」
「うん」
「結花は俺のどうにもできない人生を変えてくれた。そんなやつが悪魔なわけがない」
「至くん……」
「あんたはただ純粋に、人を好きになっただけだろ」
普段はぶっきらぼうな至くんの声が、とても柔らかく私の耳に届く。
その優しい響きに、またしても私の涙腺は決壊してしまった。
腕を伸ばし、自分と彼のどちらも慰めるように至くんに抱きつく。
誰にも本当のことを言えなかった。
おぞましく思えるような欲を抱えていた。
私たち二人は正反対のような存在に見えて、実はとてもよく似た境遇にいたのだ。
だからこそ、直感的に同じ匂いを感じ取った私は、ずっと至くんに近づきたかったのかもしれない。
涙で服が濡れてしまうというのに、至くんは構わず私を抱き寄せてくれる。
そして私の気が済むまで、彼は私の背を撫で続けてくれた。
「結花」
至くんの声が聞こえて、ハッと目を覚ました。
うっすらとまぶたを開けると、寝起きでぼんやりした視界の真ん中で、至くんが立ったまま私を見下ろしている。
「至くん? あれ、ここどこ?」
しかし起き上がってみると、辺りは見慣れない白い空間が広がっていた。
アトリエでの一件から二日が経ち、今日は月曜日。
登校したはいいものの、失恋の痛手を引きずってしまっていた私は、体調不良で保健室のベッドを使わせてもらっていたはずなのだけれど。
「ここは結花の夢の中だ」
「えっ!?」
「前に夢の中で話してみたいって言ってただろ?」
「叶えてくれたの!? すごい! 嬉しい!」
至くんは他人の夢には入らないと言い切っていたのに。
きっと失恋して落ち込んでいる私を励ますために、自分の信条を曲げてまで私が喜びそうなことを考えてくれたのだろう。
言葉少なな至くんの優しさに感激しながら、真っ白な空間を見渡す。
至くん曰く、夢魔は眠っている人間の体の一部に触れば、その人の夢の中に入れるのだそうだ。
「悪いが結花の左手に触らせてもらった」
「平気だよ。夢の中で会えて嬉しい」
そう言って笑うと、至くんもホッとしたように微笑んだ。
「ここが私の夢の中かぁ。なんだかものすごくシンプルなところだね」
「夢を操る力を持っていなければ、意図的に景色を変えることはできないからな」
「そうなんだ。至くんは自分の夢を操れるの?」
「俺は他人の夢に入ることしかできない」
「そっか。それでもすごいことだけどね」
至くんの正面に立ち、彼の右肩に触れる。
こんなにも確かな感触があるのに、ここが夢の中であるなんて本当に不思議だ。
ふと視線を上げると、何も言わずに私を見下ろしていた至くんの目が、あの金色に輝いていた。
思いもよらなかった至くんの言葉に、目を丸くしながら彼を見上げる。
そんな私の様子が面白かったのか、至くんは珍しく「ははっ」と声を出して笑った。
「このあいだ言ってたな。“俺と自分、どっちが悪魔なのか分からない”って」
「うん」
「結花は俺のどうにもできない人生を変えてくれた。そんなやつが悪魔なわけがない」
「至くん……」
「あんたはただ純粋に、人を好きになっただけだろ」
普段はぶっきらぼうな至くんの声が、とても柔らかく私の耳に届く。
その優しい響きに、またしても私の涙腺は決壊してしまった。
腕を伸ばし、自分と彼のどちらも慰めるように至くんに抱きつく。
誰にも本当のことを言えなかった。
おぞましく思えるような欲を抱えていた。
私たち二人は正反対のような存在に見えて、実はとてもよく似た境遇にいたのだ。
だからこそ、直感的に同じ匂いを感じ取った私は、ずっと至くんに近づきたかったのかもしれない。
涙で服が濡れてしまうというのに、至くんは構わず私を抱き寄せてくれる。
そして私の気が済むまで、彼は私の背を撫で続けてくれた。
「結花」
至くんの声が聞こえて、ハッと目を覚ました。
うっすらとまぶたを開けると、寝起きでぼんやりした視界の真ん中で、至くんが立ったまま私を見下ろしている。
「至くん? あれ、ここどこ?」
しかし起き上がってみると、辺りは見慣れない白い空間が広がっていた。
アトリエでの一件から二日が経ち、今日は月曜日。
登校したはいいものの、失恋の痛手を引きずってしまっていた私は、体調不良で保健室のベッドを使わせてもらっていたはずなのだけれど。
「ここは結花の夢の中だ」
「えっ!?」
「前に夢の中で話してみたいって言ってただろ?」
「叶えてくれたの!? すごい! 嬉しい!」
至くんは他人の夢には入らないと言い切っていたのに。
きっと失恋して落ち込んでいる私を励ますために、自分の信条を曲げてまで私が喜びそうなことを考えてくれたのだろう。
言葉少なな至くんの優しさに感激しながら、真っ白な空間を見渡す。
至くん曰く、夢魔は眠っている人間の体の一部に触れば、その人の夢の中に入れるのだそうだ。
「悪いが結花の左手に触らせてもらった」
「平気だよ。夢の中で会えて嬉しい」
そう言って笑うと、至くんもホッとしたように微笑んだ。
「ここが私の夢の中かぁ。なんだかものすごくシンプルなところだね」
「夢を操る力を持っていなければ、意図的に景色を変えることはできないからな」
「そうなんだ。至くんは自分の夢を操れるの?」
「俺は他人の夢に入ることしかできない」
「そっか。それでもすごいことだけどね」
至くんの正面に立ち、彼の右肩に触れる。
こんなにも確かな感触があるのに、ここが夢の中であるなんて本当に不思議だ。
ふと視線を上げると、何も言わずに私を見下ろしていた至くんの目が、あの金色に輝いていた。