「やっぱり分かっちゃった?」
「絶対に振り向いてくれないって言い切ってたから、何かしらの事情があるとは思ってた。なるほど、近親者か。そりゃあタブーだわな」
「うん。ごめんね、彼氏だなんて嘘ついて」
「別に。だけどなんであんな嘘を言ったんだよ」
至くんの言葉に苦笑いをする。
「ああ言ったら、恭ちゃんが安心してくれそうでしょ?」
「安心?」
「直接伝えたことはないけど、恭ちゃんは私の気持ちに気づいてるから」
私は物心がついたころからずっと恭ちゃんが好きだ。
そんな幼い恋心を、大人の彼が気づかないはずがない。
「でもそんなの困るだろうし、正直言って恭ちゃんも気持ち悪いはずでしょう?」
分別のつかない子供のころのことならまだしも、私はもうすっかりと成長した高校生だ。
そんな大きな姪っ子に今でも本気で恋をされているなんて、迷惑どころの話ではないだろう。
だから彼氏という存在がいれば、少しは安心してもらえると思ったのだ。
現実を言葉にすれば、改めて自分の醜悪さと直面させられる。
もはや作り笑顔で取り繕うことはできず、私は力なく視線を落とした。
「私だってね、ほかに好きな人をつくろうとしたこともあるんだよ。だけどダメだったの」
恭ちゃんを想い続けたところで、この恋が叶うことはない。
だから健全に、誰からも祝福されるような恋をしようと考えたことだってある。
中学生になったころから、身近な男の子たちと意識的に関わって、誰かを好きになれないかと頑張ってみた。
けれど優しくて大人な恭ちゃんより魅力的に映る男の子なんて、誰一人としていなかったのだ。
「それで気づいたんだ。私はきっと恭ちゃん以外の人を好きになることはないんだろうって」
生まれてからずっと、私は恭ちゃんが好きだ。
恭ちゃんだけ、恭ちゃんしか見えない。
「だから無理に諦めるのはやめたの」
その代わり、恭ちゃんにこの想いを伝えることは絶対にしない。
なるべく彼に安心してもらえるような振る舞いを心がける。
それがこの身勝手な恋心を消し去らない代わりに、私が自分自身に課したことだった。
「折り合いをつけている何かっていうのは、そのことだったのか」
ヤケになってぺらぺらと並べた私の話を、至くんはずっと静かに聞いていてくれた。
その瞳には否定も肯定も、同情も嫌悪もない。
ただひたすらに私の真意を見抜こうとしている。
そんな至くんの善良な心が、今の私には眩しすぎた。
「……私の精気、最近美味しくなったんじゃないかな」
脈絡のない私の言葉に、至くんが首をひねる。
「至くん、言ってたでしょ? 好きな人のことを考えてたら、精気が美味しくなるって」
最近になってようやく、至くんに抱きしめられていても恭ちゃんのことを考えていられるようになったのだ。
至くんに抱きしめられているあいだ、私はずっと想像している。
恭ちゃんとこんなふうにできたらいいのに、って。
「浅ましいでしょ」
品行方正な至くんと、近親者に恋をする私。
「どっちが本当の悪魔なのか分からないね」
「絶対に振り向いてくれないって言い切ってたから、何かしらの事情があるとは思ってた。なるほど、近親者か。そりゃあタブーだわな」
「うん。ごめんね、彼氏だなんて嘘ついて」
「別に。だけどなんであんな嘘を言ったんだよ」
至くんの言葉に苦笑いをする。
「ああ言ったら、恭ちゃんが安心してくれそうでしょ?」
「安心?」
「直接伝えたことはないけど、恭ちゃんは私の気持ちに気づいてるから」
私は物心がついたころからずっと恭ちゃんが好きだ。
そんな幼い恋心を、大人の彼が気づかないはずがない。
「でもそんなの困るだろうし、正直言って恭ちゃんも気持ち悪いはずでしょう?」
分別のつかない子供のころのことならまだしも、私はもうすっかりと成長した高校生だ。
そんな大きな姪っ子に今でも本気で恋をされているなんて、迷惑どころの話ではないだろう。
だから彼氏という存在がいれば、少しは安心してもらえると思ったのだ。
現実を言葉にすれば、改めて自分の醜悪さと直面させられる。
もはや作り笑顔で取り繕うことはできず、私は力なく視線を落とした。
「私だってね、ほかに好きな人をつくろうとしたこともあるんだよ。だけどダメだったの」
恭ちゃんを想い続けたところで、この恋が叶うことはない。
だから健全に、誰からも祝福されるような恋をしようと考えたことだってある。
中学生になったころから、身近な男の子たちと意識的に関わって、誰かを好きになれないかと頑張ってみた。
けれど優しくて大人な恭ちゃんより魅力的に映る男の子なんて、誰一人としていなかったのだ。
「それで気づいたんだ。私はきっと恭ちゃん以外の人を好きになることはないんだろうって」
生まれてからずっと、私は恭ちゃんが好きだ。
恭ちゃんだけ、恭ちゃんしか見えない。
「だから無理に諦めるのはやめたの」
その代わり、恭ちゃんにこの想いを伝えることは絶対にしない。
なるべく彼に安心してもらえるような振る舞いを心がける。
それがこの身勝手な恋心を消し去らない代わりに、私が自分自身に課したことだった。
「折り合いをつけている何かっていうのは、そのことだったのか」
ヤケになってぺらぺらと並べた私の話を、至くんはずっと静かに聞いていてくれた。
その瞳には否定も肯定も、同情も嫌悪もない。
ただひたすらに私の真意を見抜こうとしている。
そんな至くんの善良な心が、今の私には眩しすぎた。
「……私の精気、最近美味しくなったんじゃないかな」
脈絡のない私の言葉に、至くんが首をひねる。
「至くん、言ってたでしょ? 好きな人のことを考えてたら、精気が美味しくなるって」
最近になってようやく、至くんに抱きしめられていても恭ちゃんのことを考えていられるようになったのだ。
至くんに抱きしめられているあいだ、私はずっと想像している。
恭ちゃんとこんなふうにできたらいいのに、って。
「浅ましいでしょ」
品行方正な至くんと、近親者に恋をする私。
「どっちが本当の悪魔なのか分からないね」