「至くんにも紹介するね。私の叔父の松嶋恭太です」
「松嶋恭太って、画家の……?」
「至くん、恭ちゃんのこと知ってるの? 恭ちゃんぜんぜん売れっ子じゃないのに」
私の言葉を聞いた恭ちゃんが、「おいおい、ひどいな」と笑う。
至くんの言うとおり、恭ちゃんの職業は画家だった。
とはいえ画家としての仕事はほとんどなく、普段はデザイナー業や学校の講師をすることで食い繋いでいるようだけれど。
「2年くらい前にやってたグループ展で作品を見て、そのときに画集も買った」
「そうだったんだ! すごい偶然だね!」
「嬉しいな。君みたいな若い子に知ってもらえているなんて」
まさか至くんが恭ちゃんのことを知っていただなんて。
珍しく気持ちが高揚しているらしい至くんは、その後も「偶然見たグループ展の絵が印象的だった」だの「画集の中でも特にあの作品が好きだ」だの、普段の彼からは想像できないくらいの口数で語ってくれた。
そんな至くんを見て、ふといいアイデアを思いつく。
「至くん。今度恭ちゃんのアトリエに遊びに行かない?」
「え……」
「昔の絵とかもたくさんあるんだよ! ねぇ、いいよね恭ちゃん」
「もちろん、歓迎するよ」
私のおばあちゃんの家、つまり恭ちゃんの実家の車庫は10年前に改装され、今や彼のアトリエになっている。
そこには恭ちゃんの学生時代からの作品がたくさん残っているのだ。
あれらを見せたら、きっと至くんも喜んでくれるに違いない。
突然の提案に遠慮する至くんは、それでも私が強引に誘い続けると、やがておずおずと頷いてくれた。
「じゃあ恭ちゃん、次の土曜日に行くからよろしくね」
「ああ、分かった。待ってるよ」
「ありがとう!」
素敵な予定ができたと浮かれていると、恭ちゃんがわずかに目を細めたのが分かって、私は首を傾げた。
「どうかした?」
「いや、結花も彼氏ができるような歳になったんだなと思って。どおりで俺も老けるわけだ」
「何言ってるの、恭ちゃんは」
「ははっ。じゃあ俺は仕事だから、気をつけて帰れよ」
「うん、ばいばい」
去っていく恭ちゃんに手を振り、ふぅと息を吐く。
それから至くんを見上げると、彼はまだ遠ざかる恭ちゃんの背中を見つめていた。
「年齢は知らなかったけど、ずいぶん若いんだな。まだ20代半ばくらいか?」
「あはは、たしかに恭ちゃんって童顔だよね。あれでも今年33歳になるんだよ」
恭ちゃんは4人兄弟で一人だけ年の離れた末っ子だ。
兄弟の一番上である私のお母さんとはひと回り以上も離れていて、そのせいか今でも子供扱いをされているようだけれど、高校生の私から見ればじゅんぶんに大人だった。
「あんたが言ってた好きな人って、あの叔父のことだろ」
至くんの視線がようやく私へと向いたかと思うと、彼は確信したような瞳でそう言った。
「松嶋恭太って、画家の……?」
「至くん、恭ちゃんのこと知ってるの? 恭ちゃんぜんぜん売れっ子じゃないのに」
私の言葉を聞いた恭ちゃんが、「おいおい、ひどいな」と笑う。
至くんの言うとおり、恭ちゃんの職業は画家だった。
とはいえ画家としての仕事はほとんどなく、普段はデザイナー業や学校の講師をすることで食い繋いでいるようだけれど。
「2年くらい前にやってたグループ展で作品を見て、そのときに画集も買った」
「そうだったんだ! すごい偶然だね!」
「嬉しいな。君みたいな若い子に知ってもらえているなんて」
まさか至くんが恭ちゃんのことを知っていただなんて。
珍しく気持ちが高揚しているらしい至くんは、その後も「偶然見たグループ展の絵が印象的だった」だの「画集の中でも特にあの作品が好きだ」だの、普段の彼からは想像できないくらいの口数で語ってくれた。
そんな至くんを見て、ふといいアイデアを思いつく。
「至くん。今度恭ちゃんのアトリエに遊びに行かない?」
「え……」
「昔の絵とかもたくさんあるんだよ! ねぇ、いいよね恭ちゃん」
「もちろん、歓迎するよ」
私のおばあちゃんの家、つまり恭ちゃんの実家の車庫は10年前に改装され、今や彼のアトリエになっている。
そこには恭ちゃんの学生時代からの作品がたくさん残っているのだ。
あれらを見せたら、きっと至くんも喜んでくれるに違いない。
突然の提案に遠慮する至くんは、それでも私が強引に誘い続けると、やがておずおずと頷いてくれた。
「じゃあ恭ちゃん、次の土曜日に行くからよろしくね」
「ああ、分かった。待ってるよ」
「ありがとう!」
素敵な予定ができたと浮かれていると、恭ちゃんがわずかに目を細めたのが分かって、私は首を傾げた。
「どうかした?」
「いや、結花も彼氏ができるような歳になったんだなと思って。どおりで俺も老けるわけだ」
「何言ってるの、恭ちゃんは」
「ははっ。じゃあ俺は仕事だから、気をつけて帰れよ」
「うん、ばいばい」
去っていく恭ちゃんに手を振り、ふぅと息を吐く。
それから至くんを見上げると、彼はまだ遠ざかる恭ちゃんの背中を見つめていた。
「年齢は知らなかったけど、ずいぶん若いんだな。まだ20代半ばくらいか?」
「あはは、たしかに恭ちゃんって童顔だよね。あれでも今年33歳になるんだよ」
恭ちゃんは4人兄弟で一人だけ年の離れた末っ子だ。
兄弟の一番上である私のお母さんとはひと回り以上も離れていて、そのせいか今でも子供扱いをされているようだけれど、高校生の私から見ればじゅんぶんに大人だった。
「あんたが言ってた好きな人って、あの叔父のことだろ」
至くんの視線がようやく私へと向いたかと思うと、彼は確信したような瞳でそう言った。