「こちらおつりとレシートです、ありがとうございましたー!」
ビニール袋を持ってコンビニを出る。
出入り口には関わりたくないちゃらちゃらしたチンピラがいた。
「おい、待てよ。お前だよフード被ったそこの少年」
最悪だ。
僕は、ただコンビニにカップラーメンを買いに来ただけなのに、こんな刺青を入れまくってるようなチンピラに目を付けられるなんて。
「すみません、急いでるんで」
そう言って、僕は自分の家まで走ることにした。
だが、すぐに追いつかれてしまう。
明かりもない路地に連れてかれると、僕は腹を殴られた。
「こんなフードなんてかぶって、カッコつけてんじゃねぇよ」
チンピラは僕のフードを後ろに引っ張り脱がせた。
僕は持ち歩いていた折り畳みのナイフで、フードを取ったそいつの腹を何回も刺した。
「なぁ、どうだ?自分より弱そうなやつに腹を刺される気分は。……憎いよなぁ、痛いよなぁ……哀れだなぁ……相手が悪かったな」
刺して、刺して、刺して、刺して、刺しまくった。
流れて広がる赤い血を見れば見るほど、人を刺す快感が体を痺れさせた。
ほかにいたチンピラは逃げて行った。
夢だと気づいたのはそいつが死んで動かなくなってからだった。
「ッはぁ……はぁ…何だったんだ、あの夢は」
目を覚ますと僕は自分の部屋のベットで寝ていた。
部屋を見渡すと夢の中で買っていたカップラーメンを食べた形跡と8%のチューハイが飲み干されてあった。
「僕が食べたのか?」
部屋の中を見ても他に変わったところはなかった。
酔いつぶれて変な夢を見ただけ、そう思った。
スマートホォンで夢占いを検索した。
調べた記事にはこう書かれていた。
自覚していなくてもストレスが溜まっていて、あなたの中の攻撃性が高まっている暗示だと。
「まぁ、所詮夢の話だしな」
そんなことをつぶやいていると、着信音が鳴った。
唯一友人である、大塚龍也(おおつかたつや)からの着信だった。
「もしもし、なんだよ龍也。急に電話なんか」
(かず)大丈夫か!?ケガしてないか?」
「なんで、怪我すんだよ」
「なんでって、ニュース見てないのか?テレビ見てみろよ。外人が刺されて死んだって、和の家の近くで」
そういえば、外でパトカーの音がよく鳴っていると初めて気付いた。
テレビのリモコンを取り、電源を入れると通り魔殺人とニュースがやっていた。
テレビに映ったその外人の顔は見覚えがあった。
夢に出てきたあのチンピラだ。
待てよ、この場所……。
「わりぃ、かけ直す」
そう言って電話を切った。
池田和彦(いけだかずひこ)、この僕は夢の中ではなく、本当に殺してしまったのだろうか。
犯人は、見つかっているとニュースでやっていた。
冤罪をかけられているんだろうかと察した。
現実逃避をするために、もう一度寝ることにした。
僕は、また夢を見ていた。
今度は、僕がよく行くスーパーの近くの路地裏で、タバコを吸う夢だった。
そこで一つ疑問がある。
僕は、タバコを吸わない。
これは、ほかの人の視点から見ている景色だと気づくことができた。
だが、自分の思うように体を動かせる。
まるで、着ぐるみの中に入っているかのように。
体は少し重いが動かせた。
日は沈み薄暗い道で、僕は誰かを待っているようだった。
「見つからずに人を殺せたようだな」
「あぁ、で、報酬は?」
そう言いながら体が勝手に動き、タバコを地面にこすりつけて火を消した。
「持ってきたさ、約束の100万とお前の欲しがっていた情報」
見知らぬ人が現れた途端体が乗っ取られたかのように、勝手に動くようになった。
「お前の親を殺した奴の情報をなぁ。ほら、これが資料だ」
髪の長い見知らぬ彼は、資料をこちらに投げた。
そこに書いてあったのは、僕の親を殺した奴のことが書かれていた。
なぜだ?これは僕の体なのか?
なぜ僕の親を殺した奴のことが書かれている。
つまり、こいつも親を殺した奴とグルなんじゃないか?
なぁ、そうなんだろ。
「あぁ、確かにもらった。だからもうお前は、用済みだ」
そう言って、また人を刺した。
跳ね返る飛び血に目が曇った。
「おまっ、手を…出さないっ約束、だぞッ……」
「うるせぇな、目障りな奴は一人残らず殺すんだよ」
何度も体を刺して、髪の長い彼は息を引き取った。
「やっと死んだか」
そう言って、僕の見ているからだ本体は電話をかけ始めた。
現在地と殺した人数を言うと、後は頼むと言い電話を切った。
そこで、目は覚めた。
「っは、はぁ…はぁ…」
目を覚ますと、また自分の部屋の中だった。
僕の体は血なんかついていない。
そう思い洗面台に行くと、血だらけのパーカーがビニール袋の中に丸め込まれていた。
記憶も確かにあるが、僕がやったとは思えなかった。
何かの間違いだと、夢の中の話ならなぜ血だらけの服があるのかと、答えは分かり切っていた。
自首しよう。そう玄関に行こうとすると、体がいうことを聞かなくなった。
まるで、夢の中と同じように着ぐるみの中にいるように。
「まだ早ぇんだよ。親を殺した奴を殺してない」
そう言って、夜になるまで本体はカップラーメンを食べ始めたり、のんきに過ごしていた。
テレビでは昨日殺した長髪の男が見ず知らずの男に刺されたと報道していた。
用意された犯人は、事実を認めていない。
それもそうだ、殺した本人はここにいるんだから。
本体は、SNSに僕を殺した犯人のことを書き始めた。
10年前の連続殺人。
僕の親だけではなく、ほかにも殺された人はいた。
夜中一時にこいつを殺す。と投稿予約をして家の近くで待機し始めた。
時間になると犯人が住む一軒家の窓を割り中に入った。
寝室で寝ている、まだ小さな子供を横目に犯人を刺した。
犯人は痛みで起き、「だ、だれだ、おまえはッ…」と口にし腹を抑えた。
「わすれたのか?殺した奴の子供のことを。いいか、いまからこの子供はトラウマを抱えるんだ。お前が死んだことによってな、俺と同じ思いをするんだ。俺を殺していいのは親を殺されるお前の子供だけだ。お前には俺を殺す権利はない」
「だ、黙れ……!娘には手を出すな」
「あぁ殺さねぇよ、同じ思いさせなきゃなぁ?」
そう言って、女と男を刺し殺し少女を起こした。
「俺は、お前の親を殺した。今から火をつける巻き込まれたくなかったら逃げるんだな」
本体が脅すと、幼女は腰を抜かしたてないまま泣き叫んでいた。
「ぱぱ、……ままぁ、おきてよッ……!まま!ぱぱ!……うわぁん……こわいよぉ」
「しょうがねえやつだな、ほらよっと」
本体が少女の体を持ち上げると、玄関の外まで連れ出した。
そして火をつけると少女に話しかけた。
「憎いか。これがお前の父親がやったことだ。殺したかったら殺せばいい。ナイフならやる」
本体はナイフを彼女の前に投げた。
「………して」
「あ?何言ってるか聞こえねぇ」
「自首して、お兄ちゃん」
「何で兄だって……」
「聞いたことあったの、腹違いの兄がいるってままから。ぱぱがお兄ちゃんのままを殺したんだよね」
真相はこうだ。
僕の母を殺したのは実の父親で、母は浮気相手だった。
だから、本体が殺したのは実の父親である。
この少女は腹違いの妹だ。
「自首して、お兄ちゃん」
体の力が抜けると、体が動かせるようになった。
「わかった」
そう僕が答えると、「殺してくれてありがとう」と少女は口にした。
彼女の腕には何個も痣があった。
見てわかるほどの虐待だ。
ポケットに入れていた100万を妹に渡し、自首をした。
自分の復讐と妹の復讐、二人救った。
これが、もう一人の僕の計画的犯行だった。