高校2年生の春、1年生の輪島浩介と同じ部屋になった。
 なぜか、一緒に筋トレに励む日々――。

***

 輪島は新入生で、頭のよさはトップレベル、運動神経も抜群で更に外見は身長も高く、筋肉もありガッチリしている。更にさらに、顔も整っている。そして俺よりも年下なのに、かなり年上に見えて大人のような風貌。完璧な男でなんでもこなし、大人たちからも熱い期待を寄せられていた。

 反対に俺は問題児で、他の生徒と揉め事を起こしたり寮の規則を破り夜中外を徘徊したりしている。それが理由で、最初はふたり部屋だったものの相手が嫌がり、高校1年の時は結局ひとり部屋だった。

まぁ、ふたり部屋なのにひとりで過ごすのは、広く感じたし、気楽だったからそれでも良かったけども――。

そんな日々を過ごしていたが、高校2年の春、入学したての輪島 浩介と同じ部屋になることに。なぜ同じ部屋になったのかと言うと、他の部屋が空いていなかったらしい。

 輪島は筋トレ部に入部した。そして毎日、部屋でも筋トレをしていた。俺は特にそんな真剣に何かをやるなんて経験はないから、よく飽きないでずっとやれるなと少しだけ興味を持っていた。

 暑くなってきた季節の眠る前の時間、俺はベットでごろごろしながら、相変わらず筋トレをしている輪島に聞いてみた。

「輪島、筋トレって、楽しいの?」

「興味あるの?」
「いや、別にないけど」
「興味、あるんだ?」

 普段無表情な輪島はニヤッとした。
 俺はなぜか、ニヤッとした輪島を見て、少しドキッとして胸の辺りがざわめいた。

「何事も、やってみればいい」と、俺を手招きしてきた。今過ごしている部屋は、両端にベットがあり、真ん中に仕切るようのカーテンはついていたが、使わずにいた。だから真ん中はふたり並んで筋トレできるスペースは十分にある。

「まずは、そうだな、今日は簡単にやろうか」と、輪島は転がって足を上に伸ばしたり座りながら前にぐっとしたり……ストレッチを始めだしたから俺も自然と身体が動き真似をした。

「先輩は、どこを鍛えたい?」と、輪島は立ち、腰に手を当て聞いてきた。

 輪島は俺を先輩と呼んではくるが、ずっと出会った時からタメ口だ。だけど輪島の大人びた雰囲気のせいか、全く違和感はなく俺もすんなり受け入れることができた。

「どこって聞かれても。上半身?」
「分かった。まずはプッシュアップしようか……ついてこれるか?」

 まるで煽られているようだ。

「ついていけるし!」

 強気にそう言ったものの、プッシュアップ?ってなんだ? もはやハテナだらけの俺。カタカナは苦手だ。

 輪島は両手を床につけて、腕立て伏せのポーズになった。

――腕立て伏せか!


「ついてこい。今からやるのは、主に大胸筋、上腕三頭筋、三角筋前部、広背筋を鍛える効果がある」
「なんだそれ、大胸筋しか分からん」
「あとで教えてやる」
「分かった、とりあえずついてく」

 そんな感じで、俺が「筋トレ楽しい?」的な質問をした日から、輪島と筋トレをやる日々が。俺は必死に輪島の筋トレについていった。

 季節は移り変わり、秋になる。

 相変わらず俺らは一緒に筋トレを続けた。
 なぜか輪島から、筋トレ用にと輪島とお揃いの犬の可愛いワンポイントが胸元に入っている黒いTシャツもプレゼントされた。しかも洗い替えようにと、2枚も。最近はそれを着て一緒に筋トレをしている。

 筋トレは基礎代謝が上がり、健康にも頭にも、そして精神にもいいらしい。

 テストの成績もあがったし、喧嘩もしなくなった。最近はイライラもしない。

――筋トレ、すげーよ!!

 だけど、あんまり筋肉の変化は感じない。

「どうしたら輪島みたいに筋肉つくんだろ。あんまり変わらねえ」と俺はいつもの筋トレタイムに呟いた。

「大丈夫だ。徐々に効果は現れている」と、俺の腕を触る輪島。触られると気のせいか、胸の鼓動が早くなった。それはただの筋トレの余韻かそれとも――。胸の鼓動が早くなるのおさまれ!と思っていると「俺のも、触ってみるか?」と輪島は筋肉モリモリポーズをしてアピールしてきた。あらためて見ると、やっぱり輪島の筋肉はすごい。俺の腕とは比べ物にはならない、大きな山がある。
触らせてもらうと、固くて凄かった。

「俺も、そんな風になりたい。カッコイーな!」

 俺がそう言うと「そ、そっか?」と、輪島は頬を赤らめる。予想外過ぎる反応に俺の心の中が、たじたじしどろもどろした。

「お、俺もそんなふうになって、軽々と好きになった女の子をお姫様抱っことかしてみてーな」
「好きな女の子をお姫様抱っこか……」

 なぜか輪島は少しかなしそうな表情をして下を向く。

 なんでだ?
 じっと輪島を眺めていたら、急に俺をじっと見つめてきた。

「先輩!!」
「な、何?」
「先輩は、好きな女の子いるんすか?」

 急に敬語になる輪島。

「いや、いないけど……」
「先輩は、好きな子をお姫様抱っこするんですか?」

 じりじりと輪島が距離を詰めてくる。

「いや……」
「先輩、失礼します!!」

 そう言うと先輩は俺を軽々と持ち上げて、なんとお姫様抱っこしてきた。

「先輩、軽い……。本当に可愛い」

 俺が、可愛い?
 輪島の顔が急にデレデレしだす。

「その小ささも、明るくてふわふわしてる髪の毛も、可愛い顔も。ちょっと天然な性格も……全部、好き」

 言葉を放ったあと、輪島は「はぁ、幸せ」と呟く。なんか、俺の顔が熱くなってきた。そして心臓の鼓動も早くなって――。

「多分、俺も輪島が好きだわ」
「ほ、本当に?」

 お姫様抱っこされていた俺を更に強く抱き締めてくる輪島。

「いたい、その分厚い筋肉でそんな強く抱きしめられたら、俺潰れる!!」
「ご、ごめんなさい!!」

 焦って俺を降ろす輪島。

 輪島は目を輝かせて俺を見て笑った。その笑顔が追い討ちかけるように、更にドキドキと心臓がうるさくなった。そして俺も勝手に笑顔が込み上げてきた。

――俺は輪島のこと、いつの間にか大好きになっていたな。

「輪島、これからもずっと、筋トレしような」
「先輩……」
「鍛えて、今度は俺が輪島をお姫様抱っこする!」


 そう言って、俺は輪島と腕を組み、笑いあった。