恋人なんて、ほしいと思ったことなかった。
別になくても楽しいし、なんならない方が楽しい。
一人の人間に執着して、不安にさせないのも大事。
基本的には恋人優先。
そんなの疲れるだろ?
でも、あのときの陽向の目が暖かくて、優しくて、それが俺に向けられたとき体の奥がドロっと溶けたんだ。
びっくりしたよ。
向こうに沈む夕陽がすごくきれいで、絶景だった。
多分、忘れないと思う。
それでさ、なんかわかんないけど、俺、ある一つのことが思い浮かんだ。
仮定だけど。
俺だからこの目を向けられてるんじゃないかって。
そしたら、唐突にそれが腑に落ちて、頭の中がクリアになったんだ。
一瞬で霧が晴れたような感覚だった。
恋愛とかよくわかんない。
でも、陽向がもしそう言ってくれるなら、考えてみてもいいって思ったんだ。
俺の人生、側にいるのが陽向なら悪くないって。
だけど、言われたのは______誰のものにもならないで。
正直、勝手だって思った。
なんだそれ。
俺の隣を空けさせといて、お前は隣に来ない。
怒りが湧いた。
それを口にするほどの正当性はなかったけど。
だから、考えたかった。
陽向の気持ち、それを向けられたこと、俺の気持ち。
怒りをぶつけられるほど、同じ気持ちじゃない。
だから、言葉が見つからなかった。
「俺、恋愛とかやっぱり苦手だ。上手く伝えられないけど、どうしても気持ち悪い。傷つけたいわけじゃない。けど、」
樹の苦虫を噛み潰したような表情の、言葉にするのすら苛まれる感情が手に取るようにわかって、そして、ずっと絡まっていた糸が解けた。
____ああ、こう言えばよかった。
「樹」
思案するように一点を見つめていた樹が、ゆっくりと顔を上げた。
「ずっと側にいて。この先、おじいちゃんになっても一生一緒にいたい」
伝われ。
見つめる先に、俺の決意を。
訪れた数秒の沈黙は、心地の良いものだった。
世界に俺たち二人。
深呼吸して実感する。
この言葉を、樹の目を見て言えて良かった。
胸のすっきりした感覚は、憑き物が落ちたような樹の表情を、より一層鮮明にさせた。
「俺も」
ドクンと強く脈を打った心臓。
それが合図かのように腹の底からマグマが轟々と湧き上がる。
喉を駆け上がり、やがて目ん玉から吹き出す。
熱い涙がどくどくと流れ出て、輪郭を滑り落ちて顎を飛び出した。
水の玉が何個も、何個も。
「樹、好き。大好き」
涙が止まらない。
ずっと友達でいいと思ってた。
言うつもりのない、言えないのならせめて、このまま親友として。
それが、望める最適で最高の形だと。
「あり、がとう…っ、樹」
面と向かって好きを伝えられることがこんなにも幸せで、愛しいものだと思わなかった。
樹の全てが愛しい。
「帰ろうか、陽向。ゲームしよ」
少し寂しそうに笑う樹が一歩踏み出す。
涙を拭いながら、それでも止まらないけれど、袖を濡らして二人また、帰路を歩き始める。
「泣きすぎだ」
止まらない嗚咽に笑いながら歩く道は果てしないようで短い。
並ぶ影が、何十年先も並んでいますように。
俺たちは、いつもと変わらない、しかし、確かな約束を持った日常を送り続ける。
それがこの上なく幸せなものであることは、誰に理解されずとも確かなことだった。
別になくても楽しいし、なんならない方が楽しい。
一人の人間に執着して、不安にさせないのも大事。
基本的には恋人優先。
そんなの疲れるだろ?
でも、あのときの陽向の目が暖かくて、優しくて、それが俺に向けられたとき体の奥がドロっと溶けたんだ。
びっくりしたよ。
向こうに沈む夕陽がすごくきれいで、絶景だった。
多分、忘れないと思う。
それでさ、なんかわかんないけど、俺、ある一つのことが思い浮かんだ。
仮定だけど。
俺だからこの目を向けられてるんじゃないかって。
そしたら、唐突にそれが腑に落ちて、頭の中がクリアになったんだ。
一瞬で霧が晴れたような感覚だった。
恋愛とかよくわかんない。
でも、陽向がもしそう言ってくれるなら、考えてみてもいいって思ったんだ。
俺の人生、側にいるのが陽向なら悪くないって。
だけど、言われたのは______誰のものにもならないで。
正直、勝手だって思った。
なんだそれ。
俺の隣を空けさせといて、お前は隣に来ない。
怒りが湧いた。
それを口にするほどの正当性はなかったけど。
だから、考えたかった。
陽向の気持ち、それを向けられたこと、俺の気持ち。
怒りをぶつけられるほど、同じ気持ちじゃない。
だから、言葉が見つからなかった。
「俺、恋愛とかやっぱり苦手だ。上手く伝えられないけど、どうしても気持ち悪い。傷つけたいわけじゃない。けど、」
樹の苦虫を噛み潰したような表情の、言葉にするのすら苛まれる感情が手に取るようにわかって、そして、ずっと絡まっていた糸が解けた。
____ああ、こう言えばよかった。
「樹」
思案するように一点を見つめていた樹が、ゆっくりと顔を上げた。
「ずっと側にいて。この先、おじいちゃんになっても一生一緒にいたい」
伝われ。
見つめる先に、俺の決意を。
訪れた数秒の沈黙は、心地の良いものだった。
世界に俺たち二人。
深呼吸して実感する。
この言葉を、樹の目を見て言えて良かった。
胸のすっきりした感覚は、憑き物が落ちたような樹の表情を、より一層鮮明にさせた。
「俺も」
ドクンと強く脈を打った心臓。
それが合図かのように腹の底からマグマが轟々と湧き上がる。
喉を駆け上がり、やがて目ん玉から吹き出す。
熱い涙がどくどくと流れ出て、輪郭を滑り落ちて顎を飛び出した。
水の玉が何個も、何個も。
「樹、好き。大好き」
涙が止まらない。
ずっと友達でいいと思ってた。
言うつもりのない、言えないのならせめて、このまま親友として。
それが、望める最適で最高の形だと。
「あり、がとう…っ、樹」
面と向かって好きを伝えられることがこんなにも幸せで、愛しいものだと思わなかった。
樹の全てが愛しい。
「帰ろうか、陽向。ゲームしよ」
少し寂しそうに笑う樹が一歩踏み出す。
涙を拭いながら、それでも止まらないけれど、袖を濡らして二人また、帰路を歩き始める。
「泣きすぎだ」
止まらない嗚咽に笑いながら歩く道は果てしないようで短い。
並ぶ影が、何十年先も並んでいますように。
俺たちは、いつもと変わらない、しかし、確かな約束を持った日常を送り続ける。
それがこの上なく幸せなものであることは、誰に理解されずとも確かなことだった。