この先も君なら

放課後、一人。
教室には誰もいない。
既に飲みきったジュースを意味もなく嚥下しながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
あれから2週間と少し。
一緒に遊ばなくなったし、一緒に帰らなくなった。
お互いに別の友達と過ごす日々。
たまに目が合ったと思えば、その目はあの静謐をまとった目をしていて、そしてすぐにそらされる。
そんな、他人のような距離。
軽蔑されてもおかしくないことを伝えたのだ。
樹が時間が欲しいと言ったなら、それに疑問や反対はなく、むしろ至極当然のことだと思った。
必要な時間だと分かっていても、重苦しいものが募っていく。
ふとしたとき、言わなければ良かったと思うのだ。
誤魔化すことだってできた。
何言ってんだ馬鹿じゃねーのって、笑い飛ばすこともできた。
それでも、あの赤らむ顔に満更でもない脈を感じてしまい、半分自暴自棄のように告げたのは俺だ。
どこか失望しているのは、期待していたからかもしれない。
もしかしたら、良い方向に向くって。
きっと、世界は男と女じゃなくても人を好きになれるって。
だけど、それも少し前の話。
待つのも、自分に大丈夫だと言い聞かせるのも、渦巻くような濁った感情を押し込めるのも、終わりにしたい。
この関係がいつ終わるのかなんて考えて、ずっとこのままだったらって不安になるのも終わりにしたい。
放課後、樹が提出物を出しに行くと耳にして、良い機会だと思った。
友達に戻れないかもしれないけど、"終わり"がないよりはいい。
胸が痛むけど、方向は決まった。
立ち上がり、ジュースをゴミ箱に捨て、昇降口へ向かった。
職員室の前には樹の鞄があることを確認して、下駄箱の前で待つ。
ほどなくして職員室の扉が開いて、樹がやってきた。
鞄を手にした樹がこちらにやってきて、そして目が合った。
「……一緒に帰ろ」
久しぶりに肩を並べる時間は、とても静かなもので、不思議にもとても澄んだ空気だった。