「……なにやってんの?」
「えーと……ちょっと待って」
風磨はベッドの横にある引き出しのひとつを開け、手を突っ込んで中を探り始めた。瓶のような物体を手に握り、黄色い蓋を開け……あれ? それってもしかして、超有名な例のアレ?
「なんでそんなん持っ……あっ!! 前の!? いたの!?」
「やっぱ新品じゃないと嫌?」
「いや別に……男?」
「女の人」
「女の人……!? 彼女!? えっ、それって同級生!?」
「……年上」
今年一番の衝撃である。てっきり風磨はまだかとオレは勝手に想像していた。オレは奇しくもまだである。なぜか。男人気の方がよほど優っていたからだ。
愛でられる方の男に近寄る女子はあまりいない。今思えばだが、何かのネタにされていたような気がしている。女子たちの脳内でオレらの関係がどう展開されていたかは不明だが。なんとなくは察していたが、必死で考えないようにしていたのだ。気分が異様に塞ぐから。
しかし風磨よ、お前ちょっと前まで中学生だったはずだろ。やることやっていらしたんですか。マジですか。それ、どこでどうやってお買い求めに? あっそうか、こいつでかいから充分大人に見えるだろうし、買い物なんて楽勝か。彼女が持ち込んだ物かもしれない。聞きたくないような、細かいところまで聞いてみたいような。
「ねーねー風磨、それ何回使っ……冷た!!」
「あっごめん、温めたつもりだったけど……ちょっと我慢して」
「う、うん……あのさ、彼女って何歳年上……あっ、入んないからね? それ絶対無理だからね?」
「わかってる」
「……ねえ風磨、彼女と付き合ったきっかけって……」
「……もういいだろ。脚ぎゅっと閉じといて。こうやって」
え? こう? と腕を回して閉じた脚の間から、経験したことのない強い快感が走り抜けた。脳天めがけて切り裂くように襲いかかるその衝撃で、息を吐いて吸うことすら突然満足にできなくなった。
息がし辛い。圧倒的に酸素が足りない。だらしなく口を開けて吸うことしかできないのに、まるで被害者ぶった悲鳴までもを何度も溢れさせてしまう。
「はっ……あっ……! ふうまっ、あ、あ、あ、やだっ、それ……!!」
「シーッ。聞こえる。声落として」
形作った先から崩れる声を無理やりに整えて、無理、と言った。少しは言えていたはずだ。するとまた、かぶりつくようなキスで塞がれた。鼻呼吸だけではとても間に合わず、何度も大きく口を縦に開けたがその度にガブリと噛まれ塞がれる。
風磨は口も大きかった。勢いのあるキスをされるたび、生まれる前に消去してきたはずの記憶が蘇るような気がした。自分より大きな動物にかっ喰らわれる、という悪夢の映像が。オレの精神と下半身は、その警告夢にそぐわぬ快感の信号を発し続けているにも関わらず。
声を落としたところで意味はあるのか、と思うほどベッドの軋む音が部屋中に響いていた。その音に合わせて少しずつ、下半身の全てがドロドロに溶けてゆくような心地がする。
気持ちの良さを素直に感じようとする下半身とは裏腹に、頭の中では複数本に分かれた感情の混線が極まっていた。理性を手放す開放感、気持ちの良さ、未経験の怖さがバラバラに伸びてはしなり、また伸びては捩れ、螺旋状にもつれ合っている。
運動量の多い風磨が先に苦しくなってきたようで、オレの顔をまっすぐ見ながら間近で息を荒げている。どうしよう、と迷ったオレは自分の片手を口に当て、歯を立てた。思ったよりも強く噛んでしまい痛かったのだが、そんなことは今やどうでも良いと思えることだった。
脚を閉じさせている片腕は随分と疲れていたが、性感が来るたび力を込めてしまい、もはや癒着している状態だ。馬鹿みたいにブルブルと震え出したその腕は、風磨の手で少々雑に取られて代わられた。
何度もお世話になっている、スマホの小さな画面で見られるあの場面がまさにここにある。どれもこれもが無遠慮に肉ひだを押し広げながら挿入しているが、それに似たようなことを今している。擬似行為。行ったことのない、本番禁止の夜のお店での、大人同士の遊び方。
こんなことをどこで知ったのだ、お前やってたのかよ詳しく教えろ、と茶化す余裕は微塵も残っていなかった。グチュグチュと大袈裟に響くそれは間近で耳にするだけで酷く淫靡なものに感じるのに、それらは全て自分の陰部から発せられているのだ。否応無しに興奮を誘われてしまう。
今思えば、体育の授業でも風磨はほとんど息を乱していなかった。基礎体力という土台があり、あの演舞のような華麗な動きを実現できる筋力がついていたからだ。その風磨がいかにも気持ち良さそうにしながら夢中でオレと酸素を捕まえようとしている姿は、見ているだけで胸がドキドキした。
冷めてはいないが冷静で、笑うところを理解しているが簡単には笑わない。そんな奴がそういう気分にさせられてしまい、あっけなくオレの誘いに乗って、実際に乗っかってしまったのだ。しかも風磨はかっこいい。その辺の奴よりはるかに強い奴。その優越感と、達成感は癖になりそうなほど刺激的だった。オレがやった。オレが戦犯であるのだと。
別の意味でも気持ち良くなっていたオレは目蓋の裏がうっすら白んできていたが、風磨の方は少し物足りないと思ったのだろう。呼吸を何度か整えたあとに太ももの内側を鷲掴んで割り、肉の棒で直接中心に触れられた。同時に握る形になっている。だからそれ、どこで覚えた。実践してたんじゃないのか。白状しろ。
今は手であろうが棒であろうが、ちょっとでも強く擦られてしまえば限界が来る。お願いだからもっといっぱい擦ってという気持ちと、まだ今のを続けてほしかったという気持ちが天秤の左右に乗って、ぴったり水平に釣り合っていた。
「これっ……、気持ち、いい……?」
「ひいっ、ひもひ……!! っん、っん、ふぅんっ……!!」
「いい?」
「ひ、い、ひもひいいっ、ひもひいいっ、んっ、ふっ、ふうっ……!! ん————っ…………!!」
すぐに目盛りが狂ってしまう繊細極まる天秤など、横からガツンと蹴り倒したような衝撃が脚から脳へと貫いた。噛んでいた手は力が入らずばったりベッドにダウンして、降参の姿勢を取るしかなかった。
暑い。苦しい。腹の底からキュンキュンする。ひとりでやるより断然気持ち良かったという感動と、友達としての厚意や好きを通り越し、憧れの人と化した男とヤッてしまったという事実から来る愉悦の感情がどうにも止まらず、この場で大笑いをしそうになった。
風磨はちょっと違ったようで、オレを愛でて味わうように口付けを繰り返してきた。その舌の動きは絶妙であり、いやらしく、柔らかな肉で口の中を愛されるたびに頭が眩む。疲れと酸欠が相まって意識を飛ばしかけながらも、腹の上に撒かれたもので身体がベタベタになっていることに気がついた。2回目なのによく出たな、という別種の感動も覚えながら。
「ん……、ちょ、まって、ふうま」
「なに?」
「オレ……もうできないや……」
「えっ……? しないの? よくなかった……?」
「……あっ、違うから。今日はもうできないってことだから……あ、あは、くすぐった! ダメダメ、イッたばっか、だって、ねえっ……」
デロデロに溶けたように思えるそこを優しく弄ばれながら、首筋に舌をべろりと這わせられる。いつもなら上り詰めたあとはあまり触りたいとは思わなくなるはずなのだが、謎のやる気を見せてきた風磨に過敏になった神経の先端を突かれると、それを快感としてオレの身体は徐々に受け止め始めてしまう。身体の一部の様子が変わった実感から、復活を遂げてしまったようだと自覚した。
透明な液体を足した大きな手のひらで包まれる。また卑猥な水音と共に硬くなってゆく己のものに意識を集中させていると、風磨の唇はそっと首筋から外されて、耳を甘噛みし始めた。
荒い吐息がオレの鼓膜を震わせる。くすぐったさと、ゾクリとする性感がオレを襲う。耳朶をチュ、と音を立てて吸われ、縁に舌を這わされて、もっと奥を舐めてほしい衝動に駆られた。その柔らかな舌先は何故だかふいに離れてゆき、耳の下へと移ってしまった。
少し残念に思っていると、一気に耳の裏まで舐め上げられた。緩んだ口から歪んだ声が大きく漏れる。新しい刺激に翻弄され、とてもじゃないが堪えきれなかった。喘がせた犯人である風磨は焦ったらしく、オレの首の下に置いた腕を揺らし引き抜いて、片手でオレの口を顎ごと掴むかの勢いで塞いできた。
鼻の奥にグッと圧がかかる。まるで強姦のような格好なのに興奮する。イヤ、やめて、と言いながら下で感じているセクシー女優の演技を醒めた目ではもう見られない。だって、気持ちいい。風磨が相手だとこんなに気持ちいい。
「ふっ……まっ、ひおい……!! やら、はやひへ……!!」
「ごめ……、となり姉ちゃんの部屋だから……もうちょっと……」
鼓膜に直接キスするような低い声がそっと響いたが、耳の穴へと挿れられた舌は尖っていて強引だった。これも初めての経験であったが、唾液で濡れた感触と音が生々しい。
耳への愛撫に集中しようとしてみても、一番刺激に弱い箇所から来る甘ったるい快感が邪魔をする。肉の壁を再現している手の動き。先端の鈴割れの間に侵入し、くすぐるように細かく優しく這わされる指。今までやってみようとすら思いつかなかったその動きには、たまらず夢中になっていた。
下から突き上げてくる快感をひとつ残らず拾い集めることに必死であったそのとき、突然フラッシュを間近で焚かれたような色が目蓋の裏を端まで染め、気絶に似た感覚へと一気に落とされた。
腰を持たれて前後に揺らされたかのように、勝手に跳ねる腰の動きに合わせて全身が酷く痙攣する。頭の中に風が一筋通ったような開放感と、まどろみの気持ちよさによく似た快感が、昂った神経を撫でては去った。
その後のオレは走りに走った犬のごとく、ゼエゼエと息を上げることしかできなかった。しばらくはここから動けない。なんかこう、いい感じのピロートークとか、土台無理な感じである。正直汗が酷すぎて、ベタベタとくっつく前にそれを何とかしたい気持ちだ。ここまでするつもりじゃなかった。風呂に入った意味がなくなった。
……もしや、仕返しのつもりなのかこのやろう。ちょっとしたイタズラ心が疼いて、オレはそれに従ってみただけなのに。仲良く一回ずつ抜き合って、スッキリしてからすやすや眠ろうと思っていたのに。
オレの精液を一滴残らず絞り取ってきた犯人は、せっせとそれを片付けながらウトウトと船を漕いでいた。これだけヤればそうもなる。シャワーだけでいいから風呂に入り直そうよ、と提案した。風磨は『うん……』と目を擦りながら同意したため、のっそりゆっくり起き上がり、暗い廊下を二人でとぼとぼ歩いた。
ていうか、廊下の電気点けてくれよ。お前は慣れてるから平気だろうけど、オレは全然なんにも見えないから。それを口にするのも怠かったので、風磨のTシャツの裾を握って犬のリードよろしく活用したら、なにかを勘違いしたのか真っ暗な廊下でしばらくぎゅうぎゅう抱きしめられた。
違う違う。オレは甘えたいわけじゃない。風呂だよ風呂。さっさと行こう。GOだ。歩けホラ。
「えーと……ちょっと待って」
風磨はベッドの横にある引き出しのひとつを開け、手を突っ込んで中を探り始めた。瓶のような物体を手に握り、黄色い蓋を開け……あれ? それってもしかして、超有名な例のアレ?
「なんでそんなん持っ……あっ!! 前の!? いたの!?」
「やっぱ新品じゃないと嫌?」
「いや別に……男?」
「女の人」
「女の人……!? 彼女!? えっ、それって同級生!?」
「……年上」
今年一番の衝撃である。てっきり風磨はまだかとオレは勝手に想像していた。オレは奇しくもまだである。なぜか。男人気の方がよほど優っていたからだ。
愛でられる方の男に近寄る女子はあまりいない。今思えばだが、何かのネタにされていたような気がしている。女子たちの脳内でオレらの関係がどう展開されていたかは不明だが。なんとなくは察していたが、必死で考えないようにしていたのだ。気分が異様に塞ぐから。
しかし風磨よ、お前ちょっと前まで中学生だったはずだろ。やることやっていらしたんですか。マジですか。それ、どこでどうやってお買い求めに? あっそうか、こいつでかいから充分大人に見えるだろうし、買い物なんて楽勝か。彼女が持ち込んだ物かもしれない。聞きたくないような、細かいところまで聞いてみたいような。
「ねーねー風磨、それ何回使っ……冷た!!」
「あっごめん、温めたつもりだったけど……ちょっと我慢して」
「う、うん……あのさ、彼女って何歳年上……あっ、入んないからね? それ絶対無理だからね?」
「わかってる」
「……ねえ風磨、彼女と付き合ったきっかけって……」
「……もういいだろ。脚ぎゅっと閉じといて。こうやって」
え? こう? と腕を回して閉じた脚の間から、経験したことのない強い快感が走り抜けた。脳天めがけて切り裂くように襲いかかるその衝撃で、息を吐いて吸うことすら突然満足にできなくなった。
息がし辛い。圧倒的に酸素が足りない。だらしなく口を開けて吸うことしかできないのに、まるで被害者ぶった悲鳴までもを何度も溢れさせてしまう。
「はっ……あっ……! ふうまっ、あ、あ、あ、やだっ、それ……!!」
「シーッ。聞こえる。声落として」
形作った先から崩れる声を無理やりに整えて、無理、と言った。少しは言えていたはずだ。するとまた、かぶりつくようなキスで塞がれた。鼻呼吸だけではとても間に合わず、何度も大きく口を縦に開けたがその度にガブリと噛まれ塞がれる。
風磨は口も大きかった。勢いのあるキスをされるたび、生まれる前に消去してきたはずの記憶が蘇るような気がした。自分より大きな動物にかっ喰らわれる、という悪夢の映像が。オレの精神と下半身は、その警告夢にそぐわぬ快感の信号を発し続けているにも関わらず。
声を落としたところで意味はあるのか、と思うほどベッドの軋む音が部屋中に響いていた。その音に合わせて少しずつ、下半身の全てがドロドロに溶けてゆくような心地がする。
気持ちの良さを素直に感じようとする下半身とは裏腹に、頭の中では複数本に分かれた感情の混線が極まっていた。理性を手放す開放感、気持ちの良さ、未経験の怖さがバラバラに伸びてはしなり、また伸びては捩れ、螺旋状にもつれ合っている。
運動量の多い風磨が先に苦しくなってきたようで、オレの顔をまっすぐ見ながら間近で息を荒げている。どうしよう、と迷ったオレは自分の片手を口に当て、歯を立てた。思ったよりも強く噛んでしまい痛かったのだが、そんなことは今やどうでも良いと思えることだった。
脚を閉じさせている片腕は随分と疲れていたが、性感が来るたび力を込めてしまい、もはや癒着している状態だ。馬鹿みたいにブルブルと震え出したその腕は、風磨の手で少々雑に取られて代わられた。
何度もお世話になっている、スマホの小さな画面で見られるあの場面がまさにここにある。どれもこれもが無遠慮に肉ひだを押し広げながら挿入しているが、それに似たようなことを今している。擬似行為。行ったことのない、本番禁止の夜のお店での、大人同士の遊び方。
こんなことをどこで知ったのだ、お前やってたのかよ詳しく教えろ、と茶化す余裕は微塵も残っていなかった。グチュグチュと大袈裟に響くそれは間近で耳にするだけで酷く淫靡なものに感じるのに、それらは全て自分の陰部から発せられているのだ。否応無しに興奮を誘われてしまう。
今思えば、体育の授業でも風磨はほとんど息を乱していなかった。基礎体力という土台があり、あの演舞のような華麗な動きを実現できる筋力がついていたからだ。その風磨がいかにも気持ち良さそうにしながら夢中でオレと酸素を捕まえようとしている姿は、見ているだけで胸がドキドキした。
冷めてはいないが冷静で、笑うところを理解しているが簡単には笑わない。そんな奴がそういう気分にさせられてしまい、あっけなくオレの誘いに乗って、実際に乗っかってしまったのだ。しかも風磨はかっこいい。その辺の奴よりはるかに強い奴。その優越感と、達成感は癖になりそうなほど刺激的だった。オレがやった。オレが戦犯であるのだと。
別の意味でも気持ち良くなっていたオレは目蓋の裏がうっすら白んできていたが、風磨の方は少し物足りないと思ったのだろう。呼吸を何度か整えたあとに太ももの内側を鷲掴んで割り、肉の棒で直接中心に触れられた。同時に握る形になっている。だからそれ、どこで覚えた。実践してたんじゃないのか。白状しろ。
今は手であろうが棒であろうが、ちょっとでも強く擦られてしまえば限界が来る。お願いだからもっといっぱい擦ってという気持ちと、まだ今のを続けてほしかったという気持ちが天秤の左右に乗って、ぴったり水平に釣り合っていた。
「これっ……、気持ち、いい……?」
「ひいっ、ひもひ……!! っん、っん、ふぅんっ……!!」
「いい?」
「ひ、い、ひもひいいっ、ひもひいいっ、んっ、ふっ、ふうっ……!! ん————っ…………!!」
すぐに目盛りが狂ってしまう繊細極まる天秤など、横からガツンと蹴り倒したような衝撃が脚から脳へと貫いた。噛んでいた手は力が入らずばったりベッドにダウンして、降参の姿勢を取るしかなかった。
暑い。苦しい。腹の底からキュンキュンする。ひとりでやるより断然気持ち良かったという感動と、友達としての厚意や好きを通り越し、憧れの人と化した男とヤッてしまったという事実から来る愉悦の感情がどうにも止まらず、この場で大笑いをしそうになった。
風磨はちょっと違ったようで、オレを愛でて味わうように口付けを繰り返してきた。その舌の動きは絶妙であり、いやらしく、柔らかな肉で口の中を愛されるたびに頭が眩む。疲れと酸欠が相まって意識を飛ばしかけながらも、腹の上に撒かれたもので身体がベタベタになっていることに気がついた。2回目なのによく出たな、という別種の感動も覚えながら。
「ん……、ちょ、まって、ふうま」
「なに?」
「オレ……もうできないや……」
「えっ……? しないの? よくなかった……?」
「……あっ、違うから。今日はもうできないってことだから……あ、あは、くすぐった! ダメダメ、イッたばっか、だって、ねえっ……」
デロデロに溶けたように思えるそこを優しく弄ばれながら、首筋に舌をべろりと這わせられる。いつもなら上り詰めたあとはあまり触りたいとは思わなくなるはずなのだが、謎のやる気を見せてきた風磨に過敏になった神経の先端を突かれると、それを快感としてオレの身体は徐々に受け止め始めてしまう。身体の一部の様子が変わった実感から、復活を遂げてしまったようだと自覚した。
透明な液体を足した大きな手のひらで包まれる。また卑猥な水音と共に硬くなってゆく己のものに意識を集中させていると、風磨の唇はそっと首筋から外されて、耳を甘噛みし始めた。
荒い吐息がオレの鼓膜を震わせる。くすぐったさと、ゾクリとする性感がオレを襲う。耳朶をチュ、と音を立てて吸われ、縁に舌を這わされて、もっと奥を舐めてほしい衝動に駆られた。その柔らかな舌先は何故だかふいに離れてゆき、耳の下へと移ってしまった。
少し残念に思っていると、一気に耳の裏まで舐め上げられた。緩んだ口から歪んだ声が大きく漏れる。新しい刺激に翻弄され、とてもじゃないが堪えきれなかった。喘がせた犯人である風磨は焦ったらしく、オレの首の下に置いた腕を揺らし引き抜いて、片手でオレの口を顎ごと掴むかの勢いで塞いできた。
鼻の奥にグッと圧がかかる。まるで強姦のような格好なのに興奮する。イヤ、やめて、と言いながら下で感じているセクシー女優の演技を醒めた目ではもう見られない。だって、気持ちいい。風磨が相手だとこんなに気持ちいい。
「ふっ……まっ、ひおい……!! やら、はやひへ……!!」
「ごめ……、となり姉ちゃんの部屋だから……もうちょっと……」
鼓膜に直接キスするような低い声がそっと響いたが、耳の穴へと挿れられた舌は尖っていて強引だった。これも初めての経験であったが、唾液で濡れた感触と音が生々しい。
耳への愛撫に集中しようとしてみても、一番刺激に弱い箇所から来る甘ったるい快感が邪魔をする。肉の壁を再現している手の動き。先端の鈴割れの間に侵入し、くすぐるように細かく優しく這わされる指。今までやってみようとすら思いつかなかったその動きには、たまらず夢中になっていた。
下から突き上げてくる快感をひとつ残らず拾い集めることに必死であったそのとき、突然フラッシュを間近で焚かれたような色が目蓋の裏を端まで染め、気絶に似た感覚へと一気に落とされた。
腰を持たれて前後に揺らされたかのように、勝手に跳ねる腰の動きに合わせて全身が酷く痙攣する。頭の中に風が一筋通ったような開放感と、まどろみの気持ちよさによく似た快感が、昂った神経を撫でては去った。
その後のオレは走りに走った犬のごとく、ゼエゼエと息を上げることしかできなかった。しばらくはここから動けない。なんかこう、いい感じのピロートークとか、土台無理な感じである。正直汗が酷すぎて、ベタベタとくっつく前にそれを何とかしたい気持ちだ。ここまでするつもりじゃなかった。風呂に入った意味がなくなった。
……もしや、仕返しのつもりなのかこのやろう。ちょっとしたイタズラ心が疼いて、オレはそれに従ってみただけなのに。仲良く一回ずつ抜き合って、スッキリしてからすやすや眠ろうと思っていたのに。
オレの精液を一滴残らず絞り取ってきた犯人は、せっせとそれを片付けながらウトウトと船を漕いでいた。これだけヤればそうもなる。シャワーだけでいいから風呂に入り直そうよ、と提案した。風磨は『うん……』と目を擦りながら同意したため、のっそりゆっくり起き上がり、暗い廊下を二人でとぼとぼ歩いた。
ていうか、廊下の電気点けてくれよ。お前は慣れてるから平気だろうけど、オレは全然なんにも見えないから。それを口にするのも怠かったので、風磨のTシャツの裾を握って犬のリードよろしく活用したら、なにかを勘違いしたのか真っ暗な廊下でしばらくぎゅうぎゅう抱きしめられた。
違う違う。オレは甘えたいわけじゃない。風呂だよ風呂。さっさと行こう。GOだ。歩けホラ。